ベーシックトレーニングの重要性
一般の方のフィットネスからアスリート選手のトレーニングまで、「機能性」
というキーワードをもとに、コンディショニングが行われていますが、今一度ベーシックトレーニングにおける筋力向上の重要性を再確認してみたいと思います。
通常筋力といえば、絶対筋力あるいは体重比で考える相対筋力を考えます。しかし、特にスポーツ動作などで考える場合、スピードの概念も取り入れたパワーと表現した方が結び付けやすいのかもしれません。
「スポーツマンの体力」 (ザチオルスキー著) という本に、爆発的筋力という定義が載り、1970年代以降ヨーロッパを中心に専門的筋力という概念で広がってきたと思われます。アメリカでも、explosive
strength あるいは explosive power という表現で使われています。爆発的筋力は、旧ソ連、東欧圏からヨーロッパに普及し、反動的衝撃法・反動的爆発筋力とも表現できます。具体的方法としてプライオメトリクスのデプスジャンプやショックメソッド
(衝撃法)、通常のジャンプエクササイズなどがあげられます。
アスリートについてはさることながら、一般の方のレクリエーションスポーツ多岐にわたる目的のエクササイズなど、動きの切り替えし動作 (この瞬間伸張反射の反応が必要となり、かつ爆発的筋力が発揮されると考えられます)
がかなり重要となり、その反応の良し悪しが、パフォーマンスの向上および障害予防と関係が深くなります。
プライオメトリクスを例にして考えてみます。
下の図は、いろいろな資料として取り上げられることが多いので、見たことがある方も多数おられると思います。
1.1mのボックスから下りてジャンプするトレーニングでの効果を示した図です。
腓腹筋の筋電図をあらわしていますが、bが一般人、cがアスリート (ベースエクササイズを行っている人) です。
bをみると着地時に一気に波形が落ちているのがわかります。これは、着地衝撃に耐えられず、筋に 「抑制:力が抜けている状態」 がかかっているのです。
それに対して、cは着地の瞬間、床反力でさらに上がり、興奮性を増しているのがわかります (促通)。
何をいいたいかというと、フィットネス・レクリエーションスポーツ・スポーツなど反動動作、あるいは切り返し動作にある衝撃が加わる動きの場合、それに耐えうるだけの筋力をどれだけ持ち合わせているかが、とても重要になります。ましてや、ファンクショナルエクササイズを行う際にも基礎筋力はとても重要となります。
通常cのような効果をプライオメトリクストレーニングで引き出すためには、アスリートであれば上半身 (ベンチプレス) は体重の1.5倍、下半身 (スクワット)
は体重の2.0倍程度の筋力が必要となるでしょう。これだけの基礎筋力が備わっていれば、プライオメトリクストレーニングを行ったときに、より効果を引き出すことも可能となり、障害発生率も低くなると考えられます。
当然基礎筋力が上記より低い場合は、パフォーマンスを低下させる恐れがあるだけではなく、靭帯や腱を痛める可能性が高いと思われます。
右の図は、上図と同様にボックスジャンプを行っているところですが、各台の高さと跳躍高を選手と一般で比較しています。白丸はどちらも一般人
(おそらく体育学生)、aの黒丸は男子バレーボール選手、bの黒丸は女子器械体操選手のデータです。aのデータからはボックスが高すぎても抑制がかかるのがわかりますし、bでは女子のほうが一般人と選手との差が大きいのがわかります。
今回は、ベーシックトレーニングの重要性をテーマに、プライオメトリックと神経―筋の抑制に的を絞って書いてみました。ホリスティックコンディショニングでは、あたかも手技のアプローチのみで何もかもがOKという形でみえるかもしれませんが、最終的には人それぞれ目的にあった筋力をどれだけもち備えているかが鍵になると思います。
アスリートと一般の方では筋力値が違うのは当たり前ですが、必要不可欠なものであるのもいうまでもありません。皆さんがコンディショニングアプローチを行う際、この趣旨をクライアントにどの程度理解させ、レッスンの中に手技アプローチとエクササイズをうまく混合で組み合わせることができるか。とても大変なこととは思いますが、それを実践できるのがコンディショナーだと確信しています。ベーシックトレーニングの重要性を今一度再確認し、
少しずつでも必ず導入するよう心がけましょう。
資料出典 D.G. Sale, Nueral Adaptation to Strength Training,
In Strength and Power in Sport, P.V.
Komi Ed., pp.249-265, Blackwell Scientific Publications, 1992