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ファンクショナルトレーニングとノンファンクショナルトレーニングの一考察

 基礎体力向上 (ノンファンクショナルトレーニング:身体の構成要素すなわち筋肉や靭帯などの軟部組織を強化して、スポーツ活動などの大きな衝撃に耐えられるよう身体を造り上げる) と特異的体力向上 (ファンクショナルトレーニング:機能的な要素としての神経-筋レベルの反応を高める、例えばパワーやスピード・最大筋力・筋持久力の機能向上とともに、SAIDの原則に基づいて、それぞれの運動動作に適応した能力を養う) の二つの要素がレジスタンストレーニングでは必要となる。基礎体力の重要性の例えをこのような表現で聞いたことがある。

「基礎体力を考えるとき、よく浮き輪をイメージする。空気がなかなか吹き込めなくて浮き輪が膨らんでこないうちは、途中でやめたくなる。でも、だんだん膨らんでくると、今度は積極的に吹いて完成させようと努力する。その段階にくると、ちょっと空気が抜けてもすぐに修正が効くようになる。基礎体力もこれと同じだと思う。」

 何を言いたいのかというと、体力というのは長い間かかって少しずつ積み上げていくもので、それがある一定のレベルまで向上してくれば (浮き輪でいえば完成間近まで膨らんだ状態)、何かが原因でパフォーマンスが落ちてしまっても、すぐに取り戻せるのではないかということではないだろうか。現在、機能性向上ばかりが目に付き、目先の効果のみを追ってしまい、本質である長い間こつこつと積み上げる体力をおろそかにしているような風潮が見受けられないだろうか。指導者の皆さんも目先の効果とともに本質の部分も忘れないよう、常にクライアントには、理解してもらうよう努力しなければならないと思う。

   

 このように、ノンファンクショナルなアプローチの重要性とともに、競技特有・動作特有の動き、筋収縮形態といかにつなげていくか、これこそがファンクショナルなアプローチになる。
 ウエイトトレーニングにより筋繊維は太くなり、それだけ筋出力も出せるような状態になってくる。ただ、何らかの機能低下で筋弱化がおき、パフォーマンスが低下しているクライアントも非常に多い。当然、この機能低下を修正するのもホリスティックコンディショニングのアプローチ要素のひとつである。
 FNC (神経-筋コンディショニング) で包括すると、いかに養った柔軟性・筋力をパフォーマンスに結びつけるかが、ポイントとなる。
 養った筋力を動きの中で一気に使おうとすると、それまでにプログラミングされた動きとの間にギャップが生じ、思うように筋力が生かされず、ぎこちない動きになっている状況を指導中感じた方もいると思う。
 特に、コンタクトスポーツのように体力要素が際立つような動きよりも、ゴルフなどのように動きに緻密さが必要となる動きに対して、複合的にトレーニング効果を協調させるためには、まずできるだけリラックスさせて目的とする動作を行わせてみるのもひとつの方法ではないかと思う。この場合、単一筋へのアプローチ主体から、筋連動 (キネマティックチェーン) への刺激の変換がポイントとなるので、基本となる筋肉が収縮する順番や関節の角度変化などを、養った筋力バランスの中で覚えこませていくプロセスも必要となる。それは、全力で動かすこともさることながら、極力リラックスした状態でゆっくりと連動性を感じながら動作を実施していき、徐々に大きな素早いダイナミックな動きへとつなげていくという方法である。

   

 とともに、もうひとつ考えておかなければならないことは、動作のほとんどが関節を中心にした回転運動で構成されているということである。どちらかというと、高重量を扱ったエクササイズを行う場合、それぞれ主動筋のトレーニングになりうるが、拮抗筋・共同筋などもどちらかというと動作をスタビライズ (安定) させるために同時に収縮している。動作を遂行する場合には、安定性 (スタビライズ:同時収縮に近い状態) と可動性 (モビライズ:収縮と弛緩のバランス) が必要だ。特にヘビーな重量で、筋肥大・筋力養成をおこなっている際には、スタビライズもいっしょに効果として引き出すわけだが、神経-筋レベルの反応を動きに結びつける場合には、可動性、収縮と弛緩のバランスも非常に必要な要素となりうると思う。レジスタンストレーニングで筋力がアップし、スキル練習の中で全力で身体を動かすと、力をもてあましてしまい、硬い動きになってしまっている方を見ることも多い。これは拮抗する筋肉同士が同時に収縮してしまっていることによるぎこちなさもポイントに挙げられるのではなかろうか。
 簡単な例でいえば、ランニングの際滑らかな股関節の回転運動をするためには、大腿前面の筋肉が収縮しているときには、その裏側の筋肉が弛緩していなくてはならない。ところが、その反応がインプットされていない場合には、両方が同時に収縮を起こしてしまう状態に陥り、「綱引き状態」 によるブレーキがかかり、両方の筋肉で引っ張り合うことによる力の相殺が起こっているようにも思われる。

 私もトレーニング指導時、ヘビーなトレーニングエクササイズと対角らせん・キネマティックチェーンの代表エクササイズである、ダイアゴナルローテーションパターンを組み合わせることがよくある。ヘビーな重量をかけることによるスタビライズを、今度はいかに神経-筋を収縮と弛緩のバランスの反応へ変換させるか。開始時は、本当にゆっくり、抵抗の量も軽くし、筋肉の連動・主動筋と拮抗筋の収縮と弛緩のバランスを感じてもらいながら、徐々に抵抗の量を増やしても、 同じバランスで動かせるようにとアプローチしている。クライアントによって反応はまちまちなので、 一概にこの考え方が当てはまるとも思えないが、いち考察として方法論にいれていただければと思う。