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ホリスティック・コンディショニングにおける
エクササイズ実施時のアプローチ 2
前回よりの続き
≪ スクワットその2 ≫
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スクワットにおける機能障害を誘発する部位。
前回同様に、様々な問題がスクワットのパワー
低下に関わっている。 |
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前回に引き続いて、スクワットにおける頻発する問題について述べていきたい。ここでもう一度整理しておくと
・ スクワットは、得られるトレーニング効果は大きいが、その一方で機能障害を助長する可能性があることを認識する必要がある。
・ 手関節あるいは足関節の機能障害が、スクワットにおける筋弱化をもたらす要因のひとつとなっているが、大多数のケースで放置されている。
・ ハーフ・スクワットよりもパラレル・スクワット(あるいはフル・スクワット)の方が、股関節伸筋群の稼働率が大きいので望ましいが、多くのケースで体軸のしっかりとした、いわゆるエネルギーラインの確保されたフォームを維持することができない。それ故、パラレル・スクワットを運動プログラムに組み込むには、正常なエネルギーラインをブロックしてしまう問題点を修正しなくてはならない。
・ このような問題を分析・修正できる能力が指導者に求められており、スポーツ選手のみならず、一般のフィットネス愛好者のニーズも大きいことから、今後はパーソナルトレーナーにおいても、このような対処能力が要求されると思われる。
さて、スクワットにおける問題(機能障害)を続けよう。
マーク4:腸骨の内旋・外旋
(解説)
これも大多数の人がスクワットで抱える問題である。多くの人の骨盤が回旋しており、それも片側が外旋(EX腸骨)し、他方は内旋(IN腸骨)しているケースが多い。そのため、しゃがみ込みのボトム・ポジションでは、骨盤が右か左に回旋して、体軸がブレてしまうので、パワー低下を来たしてしまう。
特に外旋(EX腸骨)側では中臀筋が弱化するので、体幹外方でのサポート能力の低下を示すことになる。また、その対側の内転筋群は弱化するので、挙上能力に影響する。
(対処例)
関節にアプローチすれば、数秒で対処することが可能である。だが、ここでは筋アプローチの簡易対処例を解説する。
仰臥位で、調整側の膝を屈曲する。このポジションで対側の骨盤(寛骨)を固定して、股関節の内転/外転のホールド・リラックス法(筋エネルギーテクニック)を用いて、腸骨の可動性を回復させる。
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神経-筋アプローチの対処例
その1:45度程度の内転角度で、数秒間の内転方向への
アイソメトリックス―直後にリラックス。3回程度。
その2:90度程度の内転角度で、数秒間の内転方向への
アイソメトリックス―直後にリラックス。3回程度。
その3:135度程度の内転角度で、数秒間の内転方向への
アイソメトリックス―直後にリラックス。3回程度。 |
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マーク5:股関節の内旋・外旋(股関節のねじれ)及び下腿部と大腿部のねじれ
(解説)
股関節のねじれは、スクワットでの軸ブレを来たす運動姿勢の典型的な問題を引き起こす。この場合、前方から見るとしゃがみ込んだときの膝の高さが左右で異なっているので、容易に判断できる。
このことは、骨盤回旋の体軸のブレにも関連する。さらに言えば、脊椎への過大なストレスを放置することで、内臓機能にもストレスがかかり、体調を崩す恐れもあるので、コンディショナーは注意すべき問題のひとつである。
(対処例)
対処には、抑制筋・過緊張筋などの筋バランスを回復する筋アプローチと、股関節の正常な方向への可動性を回復させるモビリゼーション・テクニックを含めた関節アプローチがある。実際には、股関節にストレスをかける問題――その多くは足関節――にまず対処しなくてはならないが、股関節屈曲の正常な骨運動を回復させる一例を挙げておく。
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股関節屈曲の正常な骨運動を回復させるために、
大腿骨の股関節近く(近位)を手前に牽引しながら、
膝関節近くの大腿骨(遠位)を肩で前方に押圧して
股関節を屈曲させる。 |
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マーク6:上記の結果生じる脊椎の回旋ストレス(脊柱の側屈や回旋の歪み)
(解説)
バーを肩に保持したポジションを観察すると、
□ バーが傾いて、上下する運動姿勢で水平位を保持できない。
□ バーが正面方向に対して、正対できず回旋してしまう。
といったことが、下腿や股関節のねじれ、あるいは骨盤の回旋や傾きなどの問題を反映して、脊柱の回旋や、肩の左右の高さの歪みなどを生む。
(対処例)
全身を鏡に映して、実施者本人が運動姿勢を修正することが基本となる。専門的には、骨盤及び後頭骨―環椎を整えて体軸を整えることが必要であり、問題を起こす筋群へのアプローチも必要に応じて行わなくてはならない。
ここでは、ホールド・リラックス・テクニックを上部頚椎に用いて、身体バランスを整える一端を紹介しておく。
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頭部をこの角度で固定。屈曲動作及び伸展動作での
ホールド・リラックス法で 上部頚椎のバランスを確保
する。 |
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マーク7:脛骨と大腿骨のねじれ
(解説)
典型的なO脚傾向の膝関節のストレスでは、脛骨の内旋に対して大腿骨の外旋のねじれストレスによって、膝関節の動きに関与する筋群を弱化させる。
また、X脚傾向ではこのねじれが逆になって、やはり筋弱化を招くことになる。
(対処例)
ねじれの主因として、外側ハムストリングスと内側ハムストリングスの筋バランスが崩れていることが多く、しかも左右逆転している可能性が大きい。
ここでは、最も簡易な外側ハムストリングスのストレッチでの対処例を示す。
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足先を外側に向けて、拘縮側の外側ハムストリングスを
ストレッチする。弱化側のハムストリングスをストレッチ
すると、 さらに捻じれや筋弱化を増すことになるので
注意する。 |
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マーク8:内側広筋の固有受容器機能障害に伴う筋弱化での関節機能障害
(解説)
上記マーク7にも深く関わるが、膝関節の前方安定性に大きな役割を果たしている内側広筋の固有受容器機能障害は少なくない。内側広筋の斜走線維は膝蓋骨を内方に牽引して、外方へ牽引する外側広筋などとの筋バランスをとって、膝蓋骨を正常なポジションに安定させるが、大多数の膝関節機能に内側広筋の弱化がみられる。それも固有受容器機能障害が在ると、大腿四頭筋の筋力強化エクササイズをいくら行っても、運動効果は低いものとなってしまう。抑制(筋弱化)がある限り、この問題は解決されない。
つまり、固有受容器へのアプローチで、機能障害を取り除かなければならない。ストレッチや筋力エクササイズでは、この問題は解決されないことになる。
(対処例)
内側広筋の筋紡錘へアプローチする。通常は筋腹中央部に在る筋紡錘に、腱方向への刺激を与えることで、抑制をはずすことができる。
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筋紡錘に適切な方向への刺激を与えて、
筋バランスを確保する。 |
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マーク9:大腿四頭筋過緊張に伴うハムストリングスの筋弱化
(解説)
前記の問題とも関連するが、よく見られるケースは、内側広筋の機能低下に伴う外側広筋の過緊張が、膝関節の運動では拮抗筋となるハムストリングスの抑制弱化をもたらすことになる。そのため、『脛骨上の大腿骨の前方変位』
を引き起こすことで、結果的に膝関節関与の筋群の機能低下を来たしてしまう。
(対処例)
大腿四頭筋過緊張を解消するか、ハムストリングスの機能を回復させるか、あるいは脛骨を前方に引き出して正常なポジションに回復させることが必要となる。
なぜハムストリングスが弱化しているのかを追求すると、大腸機能障害などが明らかになるケースが少なくない。
マーク10:膝窩筋の機能障害
(解説)
膝窩筋は、下腿(脛骨)を内旋させる働きだけではなく、『脛骨上を大腿骨が前方に変位することを防ぐ』 という働きもある。
この筋もまた、固有受容器などの機能障害を引き起こすことが多く、大腿骨の前方変位を誘発するので、スクワットでの膝関節屈曲ポジションでの弱化を招く要因となる。
(対処例)
膝窩筋弱化には胆嚢へのストレスが考慮される。詳細は省くが、様々な問題が関連しているケースが少なくないので、体軸をとることが大切となる。
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腸に関わる機能障害が胆嚢に反応して
膝関節にストレスを及ぼしているケースでは、
その問題点に対処することが必要となる。 |
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マーク11:足部(足及び足根骨)の骨変位や機能障害
(解説)
この問題は、実際には今まで述べてきた全ての要素の原因となり得るものである。足部(足及び足根骨)の骨変位や機能障害は、大多数の人に在るものとして、スクワットにおける問題を考えるべきである。
□ 踵骨・距骨・立方骨・舟状骨の位置不全を修正しないと、このマイナス骨連鎖がマイナス筋連鎖をも
生じさせて、その問題は頭蓋骨の機能障害まで及ぼすことになる。
□ 中足骨の横アーチ不全もまた、歩行機能異常や肩こりなどの主因となり得るもので、高頻度で
筋弱化を引き起こす。とくに重心バランスを崩す大きな要因となる。
この他にも、各自が最も行いやすいスタンスをとるが、「自分が行いやすい」 ということは、歪みやすい
姿勢・ポジションをとりやすい、ということでもある。そのため、知らず知らずのうちに、スクワットのような
ベーシック・エクササイズを行うことで、
□ 頭蓋骨の歪み (通常、呼吸することでも筋弱化を招く)
□ 重心の変位 (中心線よりも左右のいずれかに偏移する)
□ 姿勢の歪み (膝・股関節・骨盤・肩などの左右の高さが相違する)
などが悪化する可能性が あり得る。それは、膝関節・股関節・肩関節などの左右の非対称性がより
顕著になることでもある。 |
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筋機能異常に生体エネルギー異常が反映される
以上のような問題すべてが、身体の体軸に影響する。ホリスティック・コンディショニングの最も重視する要素は、この体軸の確保にあるが、体軸がしっかりと安定しているということは
□ 脳脊髄液が、脳内から脊柱(脊椎)-仙骨・尾骨を正常に循環している。
□ それと同時に、生体エネルギー循環 (経絡システムを含む) が正常に機能している。
ということを示している。
このことは言い換えると、神経‐筋機能や関節機能などに異常があると、エネルギー伝達システムがブロックされて異常が生じ、「筋弱化」 を示すということである。関節の柔軟性だけで生体機能を評価するのは、正確に機能障害を反映しない可能性がある。それは
『筋の抑制弱化によって、可動閾が大きくなったのか、筋バランスなどの機能性バランスの向上の結果として、関節可動閾が大きくなったのかが不明確となる。』 からである
(ホリスティック・コンディショニングに習熟すると、この相違は直に認識できる。)
また、筋力検査の場合は、交感神経亢進(過剰)による 「力が入りすぎて、リラックスできない状態」 に陥っている場合も少なくない。エネルギー過剰状態となるこのようなケースは頻繁に見られるので、「過剰促通
(過緊張)」 状態を見抜けるようにしなくてはならない。(対処方法の詳細は略)
このようにみてみると、スクワットというエクササイズ一つでも、様々な問題を内包しており、大多数のケースで筋弱化に気づかず、体軸の歪みなどの問題を拡大し、非能率的なエクササイズを行っていることが明らかになろう。
平成17年11月 矢野 雅知