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コラム10

過緊張(過剰促通)と抑制・弱化の原因は?

 身体の反応は、ときに我々の想像を超える。だから、「面白い」「興味が尽きない」のである。ホリスティック・コンディショニングにおいて、想定外の結果をみるときが、進歩を促すチャンスでもある。
 例えば、
どうも調子が悪くてボーっとしており、エクササイズを行うのにも十分なパワーが発揮できないで状態であった。 そこで、頭がすっきりしないので頭部にハチマキをギュッと締めたところ、骨盤が正常化して、パワーがたちまちアップした。
慢性的な肩こりに悩んでいる方が、ひょんなことから親趾にバンドエイドを巻いたところ、急に肩が軽くなり肩こりが解消した。

 身体に予想しない反応が現われたとき、幾度も驚かされてきた。このようなことは、よく考えてみれば理論的な説明が可能であるが、
『なぜ、そういった反応を示すのか?』
 その時点では、明確にならない症状や反応があるから、追求することの面白さがある。そこには、かならず原因があり、原因があるから、結果として示される。
だが・・・・
 多くの場合、結果にのみ目を奪われてしまい、そこに焦点を当ててしまう。だから――その本質を把握できていない。身体が発する反応を見逃すことで、抜本的な解決策に至らないことが多いように思われる。

 好例が『肩こり』であろう。恐らく大多数のケースでは、肩こりを
◇ 肩甲骨内側部の過緊張
◇ 頚椎の歪みがもたらす頚部筋群の過緊張
◇ 上部僧帽筋や肩甲挙筋などの過緊張
 として、それらの筋を緩めることで解消できる、と考える。実際に、多くのマッサージや治療院での対処は
 緊張を緩和する――
 ことに主眼が向けられる。それで確かに、肩の凝りが解消されると、実施者は自信を持つ。

 それはそれでよい。だが、そのような症状に対処する『対象療法』では、抜本的な解決にはならないのでは、と指摘すると
「いーや、それで問題は解消する。できる!」
 と、過緊張・凝りに対処するには、その緊張なり凝りなりを緩めてやればよいと主張する方が、少なからずいたのも事実である。
 確かに、そのような対処方法でも十分に問題が解消されるケースが少なくないであろう。だが、視点を換えて、
 解消されたのは、そのアプローチによってではなく、身体の持つ本来の治癒能力の結果ではなかったのかという観点でみると、 様々な問題点が浮かび上がってくる。一つの例を挙げておきたい。

 米国はカイロプラクティック発祥の本場であり、通常の医師と同等とされている。とくに腰痛などへの対処では、通常の医療機関での処置よりも優れているとの評価を受けている、とされる。一方で、メディカルドクターの地位とは必ずしも同等ではなく、州ごとの公認であり、米国全土で公認されている医師の資格とは異なっている。
 そのような背景で、腰痛に対する症例の研究で、メディカルドクターのアプローチとカイロプラクターのアプローチの治癒までの期間を比較したものがある。結論から言うと、大差はないというものである。ただ、この手のデータは、ランダムに選んだ対象者の比較と言っても、少なからず研究者の思念が加わり、そのさじ加減で異なる結果がでることが少なからずある。
 また、熟練のカイロプラクター達の触診結果を比べると、人によって判断が異なることが指摘されており、その判断結果と画像診断との不一致が指摘されている。つまり、カイロプラクターは、必ずしも正確な診断と、それに基づくアプローチを行っているとは限らない、ということを報告するデータもある。

 何を言いたいのかというと、つまり、様々なアプローチがあるにせよ、治癒するのは結局はその人本来が持っている治癒力であると考えられる。その治癒力が最高度に働けるようにすることが、我々に課せられたことであり、我々が人を治すのではなく、回復を早めるお手伝いをしている、ということであろう。それゆえに、マッサージやストレッチでも腰痛が快癒するというのは、マッサージやストレッチが効いて治したというよりも、本来の治癒力によって回復したのであり、その手助けとしてマッサージやストレッチが役立った、というほうが実態ではないかと思われる。
 本稿の趣旨は、私自身の未熟さゆえの低レベルの視点である、とのご批判を受けかねないが、このまま稿を進めたい。

        

 さて、本論の核心に入りたい。
 私はカイロプラクティックの基礎は学んできたが、実際のアプローチでは基本テクニックであるディバーシファイド・テクニックは、ほぼ捨て去っている。よりシンプルで、より有効なテクニックを求めて様々なことを行ってきたが、おぼろげながら見え始めた到達点は、本来の治癒力の全ての鍵を握る『脳に対するアプローチ』である。
 この究極のアプローチを求める過程で、様々な疑問点、問題点と遭遇してきたが、今まで当たり前のように考えられ、当然のように行ってきたアプローチに対するいくつかの疑念が、
 過緊張している部位を緩和する―――
 というものである。

 『マッサージ』や『ストレッチ』、あるいは『按摩』『指圧』も含めて、その多くの対処方法が、凝っている部位、過緊張している筋を緩めることで、問題の解消を図ることに意を注ぐ。そのようなアプローチでも身体が回復したのは、本来的な治癒力が働いた結果であって、過緊張したり、凝っている部位の原因対処によるものではない、という立場に立つと、次のような見解が見えてくる。
  ――身体の凝りや過緊張とは、脳が必要だから、その組織を稼動させないように働いている防御反応である。

 ホリスティックコンディショニングでは、「過緊張筋(過剰促通)があるときは、それに関連して抑制・弱化筋がある」と考えて、過緊張部位と抑制部位の、どちらがメジャーであるかをチェックする。
 多くの場合、この抑制・弱化筋が、過緊張筋(過剰促通)の誘因となる。つまり、抑制・弱化筋をもたらす原因を考えないで(対処しないで)、ただ緊張部位を緩めることに主眼を置いてしまうと、身体の 「その組織を稼動させないように働いている防御反応」を逆に崩してしまうことになりかねない。
 按摩やマッサージを受けた翌日に、よりいっそう症状が悪化する『もみかえし』などは、実はこの身体(脳)の正常な反応を無視した結果かもしれないのである。

 このように考えると、関節――‐胸椎や腰椎あるいは頚椎も含めて、変位(サブラクセーション)したり固着(フィクセーション) したりするのは、それ以上に椎骨を動かさないようにする身体に対する脳の反応である、との見解に立てる。
 だから、修正するならば
● 関節の正常な可動性を回復する
 ということで、過緊張していた筋や筋膜を緩めることが出来るのである、と思われる。つまり、神経‐筋アプローチ(FNC)よりも関節アプローチ(FJC)の方が早く結果を示すことができる理由が、ここにある。

 また、筋及び筋膜にダメージを負っているケースなどでは
● 筋の固有受容器や筋膜あるいは筋―腱移行部細胞などのダメージを回復するというアプローチが先行する。
 肩のローテーターカフを痛めたとき、例えば棘下筋が抑制弱化すると、ベンチプレスなどの挙上能力が大幅に低下する。
 三角筋や大胸筋にも抑制がかかり、力が入らないようにしないと、常に最も小さな筋群に過大なストレスがかかってしまう。そのため、より大きなダメージを受けることを避けるために、抑制弱化して、強く筋収縮が行えないようにするための防御反応である。野球の投手が棘下筋を痛めれば投げられないのも同様である。
 このようなときに、過緊張している筋(肩甲下筋など)を緩めても問題は解決しない。 いや、身体の防御反応を崩してしまうことになり、逆に問題は悪化する可能性がある。

 ここで問題となるのは、マイナス骨連鎖やマイナス筋連鎖を示すことで、なぜ脳がそのような身体の反応を示すようにしたのだろうか、という疑問である。全ての脳の反応が必然的で、身体にとっての防衛反応の現われである、という観点に立つと
● 肩のダメージが、他の部位の抑制弱化あるいは過緊張を導いている。
 ものなのか、あるいは
● 他の部位が、肩のダメージを誘発した。
 ものなのかを、明確にして対処しないと、その反応の本質を見誤る恐れが在る。

 例えば、右足の足先部位の中趾―趾節間関節の機能障害が、右股関節に連動して、その影響から左肩にストレスがかかり、ついには左棘下筋のダメージを受けるに至り、ベンチプレスの挙上重量の低下やピッチング能力の悪化を招いているとしたら、脳は肩に対するアプローチは、どんなに適正な方法であっても本質的に受け付けない可能性がある。
 だから、ホリスティック・コンディショニングでは、メジャーポイントを明確にして対処することを強調しているのである。この認識を持たないと、
● 凝りや緊張を緩めることに主眼を置いている、数多くのアプローチ
● 機能障害に陥っている主な関節を修正することのみに眼を置いている、数多くのアプローチ
 が、本質から外れてしまい、抜本的な対処とはならないものとなってしまう。

 ただ、ほとんどのテクニック―――カイロプラクティックにしてもオステオパシーにしても、「神経根の働きを正常化する」「動脈の循環を正常化する」根本的な治療手技であるとするが、本当にそれが根本的な原因なのかは、疑問を抱かざるを得なかった、というところが本心である。
 もし抜本的な解決アプローチであれば、少なくとも原因に対処してやる以上、その原因を取り除くことで脳が反応して、速やかに回復するはずである。
 だが・・・・
 私のささやかな体験の範囲では、かなり高名で治療テクニックも高いと認められる方々でも、「あの先生でも私の身体は治せなかったのだから・・・」 という言葉を少なからず耳にしてきた。
 ある書籍で「私に治せなかったものはない」という意味のことを述べている方がいた。驚嘆である。私など、とても足元にも及ばないであろう。ただ、その方の手技は通常のテクニックを駆使するものであるらしいのだが・・・・。

 ともかく、私の焦点は、ホリスティック・コンディショニングを通してメジャーポイントの解明に向けられていた。以前は、メジャーを押さえておけば、正常な身体状態を脳にリセットすることで、少しぐらいの乱れは自分自身で回復できる。したがって、問題を解消したら、少なくとも1ヶ月は良好な状態を維持できる、と考えていた。
 そのことから、私の治療室では「月1回」を基本としていたが、ときに「3週間後にいらした方が良いみたいです」と、様々な問題を抱えている方には言うようになってきた。
 このように変化してきたのは、自分の認識に変化が生じてきたからである。

 メジャーポイントは何かと追求するとき、
● 関節機能の問題(仙腸関節の機能障害など)
● 筋機能の問題(大腿四頭筋打撲による機能障害など)
● 内臓などの諸器官の問題(糖尿病など)
● その他(メンタル・ストレスなど)
 これらの要因を追求して、それを明らかにすれば原因に対処することが可能となる、と考えていた。
 だが・・・・・
 波動水を用いたアプローチを試すようになって、疑念が沸々と湧いてきたのである。どういうことかというと、
 水は電磁波―つまり物体の波動を転写しやすい。その性質から、ペットボトルに水を入れて、そのペットボトルを手に持たせる。そして、その人の最も問題を発生している部位、つまりマイナス筋連鎖/骨連鎖を引き起こしているメジャーポイントの問題を波動水に転写して、その転写された波動水を脳に対して「切る」(脳に反応させること)ことで、瞬時に問題を解消するというアプローチを行っていた。まだ、不十分ではあるが、いずれは簡易アプローチとして完成させられると思われる。
 ともかく、そのアプローチを試みていたときに気づいたのは、メジャーに反応させても、その持続効力に問題が残ることであった。

 そんな頃、ピーナッツ・アレルギーで悩む人を診た。ピーナッツを手に持たせて、その波動(電磁波)に対して脳に正常化の反応を起こさせるアプローチで、瞬時に崩れていた体軸が整ったのである。波動水を用いたアプローチでは、体軸の回復に不満が残っているときであったので、この印象は強かった。

 これを認識するようになったのは、メジャーポイントにアプローチしているが、
 では、なぜメジャーポイントを示す部位に問題が生じるのか?という、疑問が強く沸き起こってきたからであった。

         

 原因があるから、問題が生じるのでれば、本当に問題を生じさせているのは、もっと別の問題ではないか。つまり、脳がストレスとして認識するもの
 ―――通常その多くはメンタル・ストレスが主因と捉えていたが、それ以外の何かに脳が反応しており、この脳の反射的な反応が、必ず体軸の崩れとなって示される。つまり、ホリスティックコンディショニングで強調する「体軸の確保」は、全てこの脳が決定するものであり、脳にストレスを与えるものは、全て体軸を崩す要因となる・・・・このことに気づくまで、私は多くの時間を費やしてしまったことを、悔いたのである。

 私の場合、『花粉症』があまりにも長期間にわたっていたので、様々な問題を誘発していた。それは―――他の草木でも脳が反応すると、瞬時に軸がブレることで示される。それを承知でエクササイズを行っていると、さらに体軸のブレが連動連鎖して、全身に様々な問題を引き起こしており、メジャーを押さえても、直ぐにまた反応し始める。つまり、構造的なメジャーよりも、花粉や他の物質による脳へのストレス反応のほうが優位であることを、私自身の身体が示していたのである。

 過緊張を引き起こすことが、脳の防御・防衛反応であるならば、その緊張を取り除いても抜本解決にならないことは、おそらく間違いないであろう。さすれば、その緊張を引き起こすことになった問題を解消させることができたら、それこそ根本的な対処となりえると思われる。
 ここに一つの対処例を示しておきたい。

 腰痛、肩こりで悩み、様々な治療を受け続けていた方が紹介されてきた。その方のメジャーポイントは、左側頭骨であった。この側頭骨が腸骨にマイナス連動し、腰痛を引き起こし、それが肩の機能障害を誘発して長年にわたる問題を引き起こしている、と判断された。
 では、その側頭骨に問題を引き起こすことになった問題は何か?
 それは―――メガネであった。
メガネの金属フレームに脳がストレス反応を起こしていたのである。その物質を切ることで、瞬時に体軸が整い骨盤変位は解消した。この間、およそ数秒間。
 その方は、「そういえば、このメガネに取り替えてから、おかしくなってきたようです・・・」と述べていた。
                           

平成18年6月  矢野 雅知