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コラム20

ホリスティックコンディショニングからみた、指導現場の問題点 その3


その1:身体機能を低下させるもの(その3)

 今回は、レジスタンス・エクササイズにおける運動実施時の問題点に焦点を合わせて、ホリスティックコンディショニングでいうところの、『ファンクショナル・エクササイズ』と『ノン・ファンクショナル・エクササイズ』について解説したい。

気をつけるべきエクササイズ
 上肢のプレス系エクササイズには、「ベンチ・プレス」「ショルダー・プレス(オーバーヘッド・プレス)」などプッシュ系の多関節エクササイズがある。なかでも「インクライン・ベンチ・プレス」や「ビハインド・ネック・プレス(バック・プレス)」は、ベーシック・エクササイズであるが、問題を起こしやすい運動種目である。
 また、プル系エクササイズでは、ラットマシーンでの「ビハインド・ネック・プルダウン」あるいは「チン・ビハインド・ネック」などのエクササイズが、やはり問題を起こしやすい。
 運動フォームによっては、特異的な関節角度で、筋に過大なストレスを与えたり、関節機能障害などの問題を引き起こし、多くのケースで『ノン・ファンクショナル・エクササイズ』となってしまう。ここでは、インクライン・ベンチ・プレスに焦点を絞って、その問題点と解決の一方法を探ってみたい。

インクライン・ベンチ・プレス
 インクライン・ベンチ・プレスにおいて、正常に機能する運動フォームで行っている方は、そう多くはない。大多数の方は、気がつかないまま、何らかの機能異常を引き起こすフォームでエクササイズを行っている。言い換えれば、「ノン・ファンクショナル・エクササイズを行っている」ことになる。それ故、鍛錬度レベルが高い人ほど、ハードに追い込むことによるオーバーストレスで、様々な問題が誘発される。
 インクライン・ベンチ・プレスは、通常では、上部大胸筋(大胸筋鎖骨部)、小胸筋などを強化するために、それらの筋を最も刺激しやすい、35度前後の傾斜角度のベンチ台で実施する。この傾斜角度に対して、特異的に抑制弱化反応が現われる。
 ホリスティックコンディショニングに熟達してくると、ノン・ファンクショナル・エクササイズか否かが、その人の運動フォームを通して感知されるようになる。

 次の 3点に焦点を合わせて、問題を起しやすい典型例で説明する。
(1)上腕骨頭(肩甲上腕関節)の運動時機能障害
 多くの方はフラット・ベンチでのベンチ・プレスでは問題を起さないが、35度前後の角度でのインクライン・ベンチでは、肩甲上腕関節(いわゆる肩関節)にストレスがかかる。詳細は省くが、次のことを実施すると理解しやすい。
(チェック1)写真1
 フラットのベンチ台で、ベンチ・プレスを行なうフォームで、こぶしの上からパートナーが手を重ね合わせて抵抗をかける。
しっかりと力が入ることを確認する。
    写真1:フラット・ベンチ台でのプレス(問題なし )

(チェック2)写真2
 次に、インクライン・ベンチで同様のことを行なう。
 力が入りづらくなり、パワーが低下することが解る。
    写真2:インクライン・ベンチ台でのプレス(抑制弱化示す)

(2)グリップ幅
 大多数の方が、ノン・ファンクショナルなグリップ幅で行なっている。
 これも詳細は省くが、大多数の方が「広すぎる」グリップ幅で行なっている。そのため、ノン・ファンクショナルなエクササイズとなっている。
 次のことで確認する。
(チェック)写真3(1-2)
 軽い負荷にセットしたバーを、挙上の中間フォームでパートナーが抵抗をかけて、抑制弱化があるか否かをチェックする。
 ほとんどのケースで、ワイド・グリップで抑制弱化を示し、肩幅に近いナロー・グリップでは正常化する。つまり、本人が考えているよりも、やや狭めのグリップ幅がファンクショナル・エクササイズとなる。
    写真3-1:ワイド・グリップでのインクライ・ベンチ・プレス(抑制弱化示す)

    写真3-2:肩幅では正常化する。

(3)頚椎の角度
 鍛錬度の高い方はそうではないが、多くのケースで頚椎の角度が適正でなく、抑制弱化をもたらす頚反射のフォームで行なってしまう。目線の問題もあるが、プル系優位の頚椎屈曲ではなく、プッシュ系優位の頚椎伸展フォームで行なうと、しっかりと追い込むことができる。
 このことは、次の項目にも関連するが、特に初級レベルの方は、中部胸椎にストレスのかかるフォームに陥りやすい。
(チェック)写真4(1-2)
 頚椎を屈曲したフォームで、エクササイズの中間ポジションで抵抗をかけると、抑制弱化することが理解できる。このとき、中部胸椎周辺(人によっては、上部から中部胸椎)にストレスがかかりやすく、このフォームを継続することで、身体の歪みを助長する可能性がある。
    写真4-1:頭を持ち上げると、胸椎にストレスがかかり、抑制弱化を示す。

    写真4-2:頭部を反らせると、胸椎も正常に働き、伸筋優位となり、パワーを発揮しやすい。

 運動フォームで頚反射をパワーアップに活かすには、ただ頚椎の「伸展したフォーム」「屈曲したフォーム」にするだけでは、十分ではない。脊柱の正常なアーチや可動性を確保して、体軸を崩さないフォームをとれるようにしなくてはならない。
 この修正を簡易に行なうには、前回紹介した体軸を整えるためのブリージング・プルオーバーを実施するとよい。

(4)オーバーハンド・グリップとニュートラル・グリップ
 オーバーハンド・グリップで行なうバーベル・プレスと、ニュートラル・グリップで行なうダンベル・プレスでは、胸椎にかかるストレスが大きく異なることに注意するべきである。
 大多数の方は側湾傾向にあるが、その場合、オーバーハンド・グリップで行なうことになるバーベル・プレスは、特に胸椎の6番もしくは8番に過大なストレスをかけてしまい、そのため様々な問題(歪みの助長など)を引き起こしかねない。
 このようなケースでは、ニュートラル・グリップで行なうダンベル・プレスは、ストレスが軽減できるので、ファンクショナル・エクササイズとなる。肩を痛めているようなアスリートは、バーベルからダンベルでのエクササイズに切り替えるとよい。
(チェック)写真5
 ダンベルを両手に保持して、ショルダー・プレスの中間ポジションにセットする。このとき、補助者が胸椎の6番または8番の棘突起(脊柱真ん中ラインで、骨が少し突き出しているところ)の上に指先を当てる(註:写真は片手で示す)。
◇ バーベルで行なうように、オーバーハンド・グリップのポジションにすると、パワーが低下することが判る。
◇ニュートラル・グリップで同様に行なうと、正常化する。
 この場合、オーバーハンド・グリップで行なうバーベル・プレスは、ノン・ ファンクショナル・エクササイズとなる。
 このことは、インクライン・ベンチ・プレスにも当てはまるので、問題のある方は、バーベルを用いるよりも、ダンベルでのエクササイズを行うほうがファンクショナル・エクササイズとなり、パワーを発揮しやすい。
写真5:胸椎の6番と8番に指先を触れて、プレス動作に抵抗を与える。オーバーハンド・ グリップでは抑制弱化を示すが、ニュートラル・グリップでは正常化する。

ローテーターカフ(肩の回旋筋群)に過大なストレスがかかる

 プル系エクササイズの、代表的なチン・ビハインド・ネックやラットマシーン・ ビハインド・ネック・プルダウンは、肩幅よりも広めのワイド・グリップで行うことになるが、これらの種目もまた、機能障害を起こしやすく、ノン・ファンクショナルなエクササイズとなってしまうことが多い。肩を痛めている方は、基本的に止めた方がよい。
 ここでは詳細は省くが、上部胸椎(特に胸椎1-2番)にストレスがかかる。
 また、肩を痛めていなくても、上部胸椎の特異的にストレスのかかる胸椎1-2番は、正常な可動性を確保してから行なわないと、ノン・ファンクショナル・エクササイズとなってしまう。

ゴム系マテリアルで行うノン・ファンクショナル・エクササイズ
 ゴムなどの材質で行うエクササイズ(セラバンドやゴムチューブ系の器具)は、従来からリハビリで多用されるが、簡易に行えることから、パーソナルトレーナーのアイテムとして人気があり、アスリートの補助エクササイズとしても、幅広く活用されている。
 ただ、このようなエクササイズの大半は、ノン・ファンクショナル・ エクササイズとなることを、認識しておくべきであろう。
 長いゴム製のチューブのようなもので、エクササイズで行われる可動閾で負荷の増減の幅が小さなものであれば、ノン・ファンクショナルとはならない。実際には、このようなものは使われないので、ほとんどのケースで神経‐筋パターンに問題を生じてしまう。場合によっては固有受容器に過度なストレスがかかり、身体を歪める可能性もある。
 これについては、あまり薦められることではないが、棘下筋や棘上筋のエクササイズを行ってから、野球のスローイング動作やバレーボールのスパイク動作などを比較すると理解できる。
(チェック)写真6(1-2)
 ゴム系のエクササイズで、棘下筋、棘上筋を強化する(筋の抑制弱化反応を示す)。
 その後で、スローイング動作をすると、肩や肘を痛めやすい運動フォームに陥りやすい。具体的に表現すると、肘の下がったフォーム陥りやすい、ということである。
   写真6-1 ゴムでのローテーターカフ・エクササイズ。このエクササイズは神経‐筋パターンを崩し、ノン・ファンクショナル・エクササイズとなる。

    写真6-2:肘の下がった投球ホーム