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お遊びコラム 7

   「リバース・グリップ顛末記」

 本文は 『お遊びコラム』 に分類しているが、その中身はいたって学術的なものである。30年以上もレジスタンス・エクササイズなどのコンディショニングに携わっておりながら、ついぞ
 なぜリバース・グリップは強いのか? 
ということに、疑問を抱かなかった。それを論じたのが、本コラムである。そう、実に学研的なテーマに取り組んだのである。少なくとも私の知る限り、過去数十年間において、いや神武天皇が大和民族を統治した時代から、誰一人として、明確にこの問題に対処して論じた者はいなかった、と思われる。ただ、このことが 『ホリコン倶楽部』 の中で展開されたことから、止む無く 『お遊びコラム』 での扱いとなったのである。よって、この崇高なテーマは、以下の如くお遊びとなる。

なぜだべか? 
 コトの発端は、「なんで、リバース・グリップが強いんだべか?」 と、ある若手の専門学校の先生に、もっと若い生徒が質問したことに始まる。
「なぜだべか?」
「それはね・・・君ぃ・・・その、なんだ・・・うーむ。他に質問は?」
てな問答があって、
「なぜだべか?」
と、とある某療術学院で私に聞いてきたのである。私も考えたこともないテーマであったので、参加者と共に推論した。実に真面目に自分なりの回答を提示したのである。ただ、本コラムが 『お遊び』 に分類されたのは、そのときの参加者の中に、宇佐見健太郎氏が紛れ込んでいたことが原因であった。

 通称 『ウサケン』 自称 『うさたん (現在うさてんと名乗る)』 が、ホリコン倶楽部に次のようなスレを書き込んだ。
「 ・・・・ところで昨日、(ヤー公が)
『なぜリバースグリップにすると握力保持能力が高まるのか?』
と、問題を出した。・・・中略・・・(ヤー公は)『きっとホリクラの精鋭達はこれ以上に明確な答えを出してくれるハズだ!』 とネイルケアをしながら申しておりました。ヤー公様のご期待に副えられる様、皆様の素敵な解答をお聞かせください。」

 言うまでもないが、私はネイルケアしながら申した覚えはない。大あくびをしながら
「考えろよ!」
って申した記憶もない。
「実に興味深いテーマだ。うん、みんなで考えよう。なぜだべか?」
って、真面目に申した記憶は、確かに、はい、ありました。

 さらにうさたんは、次のようなスレも付け加えた。
「最も皆様を納得させる解答を書き込みされた方には、ヤー公様から素敵なご褒美が与えられるとの事!皆様、奮ってお考えください。〆切りは今月末にございます。」

 私は慌てた。褒美なんぞ考えたこともなかったからだ。『素敵なご褒美』 は何にしようか?いっそのこと図書券でもと思ったが、一度そんなことをすると、うさたんは必ず 「図に乗る」。
「みなさん!今回は図書券ですが、次回からは現金がもらえます」
「みなさん!今回は1万円ですが、次回からは2万円がもらえます」
ついには 「10万円もらえます!」 などと言いかねない。そこで思いついたのは、見事な回答をした方には、皆さんの前で、万歳三唱しよう。
「そーれ、ばんざーい!」
って、未来永劫その栄誉を讃えればよい、と、思ったが、

「 ふざけるな!!」 

って、こ突き回されそうなので、これには触れないことにした。

    アカデミー・アドバンスでのひとコマ。ハーレム状態のうさてん。


様々な見解
 まず反応を示したのは、髪振り乱して床を這う貞子芸を持つ自称桃尻娘であった。
「握力保持能力がリバース・グリップで高まるのは、手首の腱が固定されるからよ。腱固定効果とは、手関節を背屈すると、長指屈筋の長さが相対的に不十分なために、指節間関節が屈曲してしまうってことなの。お分かり?(分かったら、さっさと素敵なご褒美よこしなさいよ)」
 つまり、長指屈筋の腱の反射的屈曲作用で、指が曲がりやすいんだから、あんた、グリップが強くなるのに決まってるでしょ!っていうことである。ただ、手関節を背屈するという条件付きである。私の反論
「手関節背屈は、ヘビーウエイトでは無理ではないかと思われます。それなのに、アンダーハンド・グリップやオーバーハンド・グリップよりも、リバース・グリップは明らかに強いのです。なぜ?」

 すると、ホリコン倶楽部定例会の後、ダーツバーで自称桃尻娘らと夜明けまで元気に暴れ回っていた、スポーツ整体ヘルシアの院長で、『つまみ枝豆』 と義兄弟のホリコン倶楽部会長が
「そーやなあ、それって日テレ・・・・じゃない、それって、リバースグリップは片側前腕回外、手首掌屈、指屈曲、反対は回内、掌屈、屈曲ですよね。だったら、PNFの屈曲、内転、外旋パターンと伸展、内転、内旋パターンと同様の動き (スタートとフィニッシュの違いはありますが) で、両側とも力の入りやすいパターンではないのかい。もうお分かりでしょう、そう、これも一つのファクターではないかいな? (よし!これでバッチし当たり。さあ、賞品とやらをよこしなさいな)」
と、分析。これにうさたんが直ぐに反応。
「さすがヘルシア会長!(ヤー公の) 見解に少し似ていますが、うーん惜しい!もう一息でございます。これとは違った見解をお持ちの方、コラムの主役を張るチャンスでございます!最近、脇役に甘んじている感の否めない若造殿いかがでしょうか?」
 が、若造殿は無視を決め込む。反応しない。

で、うさたんは
「うさたんは閃いた!範馬勇次郎の言葉を思い出し閃いた!力の流れを考える。まずウェイトにかかる力は地面 (重力) 方向に向って一つ。オーバー (アンダー) グリップで掌を同側に向けると掌側に力が流れ、一つ。計二つの力に分散される!リバースで掌を互い違いに持つと掌から流れる力も前後に向かい二つに分かれ、計三つの力に分散される!だから負担が少ない!是即ち 『守りの消力 (シャオリー) 転じて、攻めの消力 (シャオリー)』 の原理にございます。ヤー公様どうだっ! これで、賞品はこのうさたん様のもの。」
 このようなスレを発表。だいたい我々には、範馬勇次郎なる人物が分からない。何者なのか? ま、そんなことより、
「ウェイトにかかる力は地面 (重力) 方向に向って一つ。掌側に力の流れが、一つ。計二つの力に分散される!」 と述べているが、なんで 「計三つの力に分散される!だから負担が少ない!」 のか、意味が分からない。
聞いたこともない原理を持ち出して、世俗の人々を混乱させるのは、いんちきセールスマンの常套手段であるが、要するに、
グリップをお互いに向け合うので、保持しやすいのである、言っているようなのだ。

 これには同調者が現れた。若造氏である。
「おいらもうさたんと同意見ですねえ。対称方向の掌による力のかかり具合+重量の地面に向かう力によりシャフトが転がろうとするが、対称の方向に抑えられている故かなあ。寝ぼけながらに思いました。」
こんなスレが書き込まれた。さらにプレデターと名乗る人物が
「それでしたら答えは簡単です。人間の身体がもともと左右非対称だからですよ。これ以上はわれわれの存在を脅かす恐れがあるのでいえませんが・・・ 」
と、もっともらしく、だが意味不明のスレを書き込んだ。左右非対称は理解できるが、存在を脅かす恐れがある・・・なんていうと、まったく異次元の話になってしまう。

 その後、みんなが無視を決め込むと、黙っていられずうさたんはすぐに次のようなスレを出した。
「数名の方達からの見解を頂きましたが、本日24:00を持ちまして〆切りとさせて頂きます。他にご意見をお持ちの方、是非ご投稿ください。ちなみにヤー公様は 『もっと面白い解答はないのか?ホリクラの精鋭達はこんなもんじゃないハズ!これじゃ良いコラムが書けない!』 と些か、がっかりされている模様…。チャクラさん、ハッスルさん!いかがですか?」
 名指しされた裏番長ハッスル氏は
「呼ぶなよ!わざわざオーストラリアにいる人間を! 毎日セブンスターくわえながら背中丸めて携帯でホリクラに投稿してる誰かさんみたいに暇じゃないんだよー。 せっかくだから一応参加しておくけど、オルタネイトグリップは両方向のグリップの回転力が相殺されるから高重量を扱えるのです。トレーニングの基本です! しかし、ヤー公さまが聞いておられるのだから、そんなことが答えではないのでしょう 。 でもそれ以上のことは今考えてる暇がないのであしからず。」
 と、真剣に乗ってこない。ま、オーストラリアまで来て、「なんで?リバース・グリップが・・・」 なんて、やってらんないであろう。同じく名指しされたチャクラ氏は
「呼ぶなよ! まったく、毎日セブンスターくわえながら背中丸めて携帯でホリクラに投稿してる誰かさんみたいに暇じゃねーんだよ。私もハッスルさん同様バーベルの回転が相殺されるから、しかわっかりませーん。つうかそれがわかってりゃ十分なんでねーのかい? それよりどうやって日々クライアントの歪みを修正するか、の方が大事ですわ。」 
 と、これまた真剣に取り合わない。

 回転力の相殺は、確かにひとつの要素である。だが、回転式バーではなく、非回転式バーでも、やはりリバースグリップは断然強い。つまり、まだ他の何かが大きく関与しているはずなのである。
 逆走の得意技を持つハムスター氏がらスレが入る。
「雑巾絞りみたいな感じかな。上肢の左右対称の動きで、連動にねじれが加わり体幹から全身に出されるパワーが増すからかな。(関節も対応するから下肢などもねじれが入るといえるのでは?) これって的を得てるかな?」 

 ここで下肢の連動動作まで踏み込むスレになった。ぼやけているが、上肢―下肢の連動連鎖にまで踏み込んできたのである。だが、時間切れでこの話題は忘れ去られていった・・・・のである。だが、はじめに述べたとおり、 少なくとも半世紀以上を生きてきた私は、この問題を納得できる方向で論じたものに出会ったことはなかった。
 以下、私なりの回答である。おかしいと思われる方は
「異議あり!」
と怒鳴って欲しい。いや、そういうことなら納得できる。「でかした!」 って思われる方は、
「そーれ、ばんざーい!」
って、三唱して頂きたいと祈念いたします。

独断的な理由
 次のことをチェックする。

姿勢その1: オーバーハンドグリップでバーを持って、やや前傾姿勢をとる。
  ⇒ 恐らく、大多数の方は、両肩が前方に入り、脊椎 (特に上部胸椎) への屈曲の動きを止められず、体軸が崩れやすい。
 オーバーハンド・グリップ
 
 このグリップで前傾姿勢をとると、体軸が崩れる。

姿勢その2: アンダーハンドグリップでバーを持って、やや前傾姿勢をとる。
   ⇒ やはり、両肩が前方傾向で下がり、脊椎 (特に上部胸椎) への屈曲の動きを止められず、体軸が崩れやすい。

 アンダーハンド・グリップ
 
 このグリップで前傾姿勢をとると、体軸が崩れる。


姿勢その3: リバースグリップでバーを持って、やや前傾姿勢をとる。
  ⇒ このグリップのみが、肩の下方への動きを相殺して、脊椎 (特に上部胸椎) への屈曲の動きを止められる。 言い換えれば、脳脊髄液を正常に流して体軸をとることが可能となる。

 リバース・グリップ
 
 このグリップのみが、前傾姿勢をとっても、肩甲帯が
 安定して、体軸が崩れない。


 また、グリップ力は肩甲骨周辺の筋を促通する効果を持つが、この肩甲帯の筋群の促通効果が鎖骨の安定性を確保し、 脊椎の動きと唯一連動する胸鎖関節を介して自律神経系を安定させる。その効力がリバース・グリップが最も大きくなる。
 さらに言えば、上肢は 「内旋」 がやりやすい側と 「外旋」 がやりやすい側がある。当然、お互いにやりやすい側は、体軸が崩れやすい側でもあり、やりにくい側で行うと、上肢の内外旋の動きに連動して、体幹-骨盤-下肢とプラスの連動が、さらに強く働いてくる。
 これには、次のことが関わっている (と思われる)。

 人体には、右の体幹は前面の上部から上肢及び下肢に抜けるエネルギーラインが走っている。 左側前面はその逆に上肢及び下肢の先から体幹に向かうエネルギーラインが走っている。 これは、背中側はそれぞれの生体エネルギーの流れは逆になる。これはまた、男性と女性ではエネルギーの流れが逆になるという。
 まだ、生体エネルギーの流れについての科学的な裏づけは一致していないが、インドの 『プラーナ』 や東洋医学が数千年前から指摘してきた気の流れは、ようやく解明されつつある。
 実に、ヘビーウエイトのデッドリフトを可能にするのは、体軸を整えたときであり、その体軸を整えて、最もエネルギーの流れをブロックしないグリップが、リバース・グリップでの姿勢なのである。

 私は、次のような逸話を思い出す。
 昔 (確か20世紀前半のアメリカ)、この重さのウエイトをデッドリフトした者に、「賞金をやる!」 といった告知がされた。 まず人間には挙げられないであろう、という想定であったという。 だが、それをバーベルをまたいで前後にバーを保持する方法で持ち上げて、大金を手中に収めた奴がいた。
 彼の名をとって、『ケネディ・リフト』 と呼んでいる。これもリバース・グリップである。

 今では、誰もこんなリフティングを行うものはいないが、正確な動作でこのリフトを行うと、 実に体軸の取れる姿勢になることに気づくであろう。だが、体軸の崩れている者が行うと、まるでエネルギーラインがブロックされてしまうリフトなのである。
 すべてのリフトが、万人に適応するとは限らない。 ホリスティックコンディショニングの解析で、その人に最も合ったエクササイズを指導しよう。

                                    平成17年5月中旬 矢野 雅知