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ソフトギムによるセルフ・ジョイント・コンディショニング2

(ホリスティック・コンディショナーのアプローチ例)

体軸と機能不全
 ホリスティック・コンディショニングの主体を成すアプローチは、『体軸をとる』 ことにある。仙骨‐脊柱‐後頭骨(頭蓋)のラインが適切で、脳脊髄液が正常に呼吸に合わせて脊髄内を循環し、しっかりとしたパワーが発揮される状態にあることが、その基本となる。この体軸がとれないアスリートは敗れ去っていくし、体軸のとれない歪みを持った人は、機能不全‐各種障害・疾病などに悩まされていくであろう。

 ミルコ・クロコップというアスリートがいる。強烈な蹴りで世界のファイティング・アスリートを次々とマットに沈め、あのボブ・サップさえ一発でKO した戦慄の格闘家である。その彼がトレーニングしているところを見る機会があった。通常、格闘家は様々なダメージを負っているために、身体の各所に抑制ポイント―つまり弱点を持っていることが多い。だが、彼の動きを見る限り、体軸がしっかりとして左右バランスも極めて高く、相手と組んで押し込まれても、この体軸が崩れない。言い換えれば、パワー低下をもたらす動きの抑制ポジションに入らないのである。

 史上最年少で全日本の覇者となり、200連勝の偉業を達成し、世界の柔道界に君臨した山下泰弘氏は、柔道家の理想とされながらも、実際には成し得ないといわれる 『自然体』 で相手と組んだ。背スジを伸ばしてスっと立っているのに、相手がいくら技を掛けてもまったく崩れなかった。これほど見事な体軸のとれたアスリートは、山下氏を最後にもはや出現しないのではないか・・・と思われていたが、ミルコ・クロコップ、彼を見ていて山下氏の強さに共通する動きを見た気がした。

体軸不正は呼吸機能に反映される
 アスリートであれば、動き回った後でも体軸の崩れがあってはならない。体軸の乱れはパワーの低下に直結する。これは従前から行われているストレッチやレジスタンス・エクササイズで単純に解決できるものではなく、大多数のアスリートは、体軸の崩れに気づかないだけである。では、通常の運動メニューを終えた後で、次のチェックをしてみよう。

(テスト)
 立位姿勢で、大きく息を吸い込んだ直後に、拇指‐小指で作る Oリングテストで、筋の弱化を検査する。同様に、息を吐き切った直後に、筋の弱化を検査する。

 この簡単なテストで、体軸の歪みの存在が判る。恐らく、運動前ではアスリートの50%以上、運動後では80%以上が筋弱化を示すであろう。

ストレッチでは解決できない問題  
 ウォーミングアップ・ストレッチの主目的は、機能的関節可動域を確保することにある。だが、正確に言えば、通常行うストレッチ・エクササイズでは、ベストな機能的関節可動域は確保できないであろう。また、運動後のウォーミングダウンで行うストレッチでは、「筋を静止長に戻す」 という大きな目的がある。運動疲労から筋を回復させるための重要な要素となるが、やはりストレッチだけでは十分ではないし、対応できないものがある。それが 『仙腸関節』 である。

       

 仙腸関節は唯一筋肉支配を受けない関節である。それゆえストレッチでは十分に対応できない関節でもある。長座体前屈ではベタッと腰から折れ曲がり、見事な柔軟性を見せるエアロビック系ダンサーなどに、仙腸関節のロッキングで腰背部に問題を抱える例が少なくない。骨盤帯筋群の十分な柔軟性を保持していても、股関節屈曲や体前屈などの動作では、正しい仙骨と腸骨の動きが確保できないために、トリックモーションが生じてしまい、身体各所に筋弱化-過緊張さらにはそれに付随する関節機能障害の問題を生じてしまう。

スクワットやデッドリフトを行うための前提条件
 正常な脳脊髄液の流れを確保して、回復機能を促進するには、この仙腸関節の微小な可動性を確保しなくてはならない。仙腸関節は、ほとんどの腰痛対策の鍵となり、身体全体に関わる多くの機能不全(機能障害)に関与する。この仙腸関節が動くことは証明されているが、医学書では可動性のない関節として扱われている。ともかく、この関節がロックすると(ロックされている人は極めて多い)、体軸がとれず最大パワーを発揮することもできず、身体全体に歪みの問題が及んでいく。

 ベーシック・エクササイズとして重要なスクワットでもデッドリフトでも、この仙腸関節の微小な可動性を確保しなくては、腰椎・腰仙関節に多大なストレスがかかってしまう。これらのエクササイズの価値は大きいが、その効果を引き出せる身体状態を確保することが、その前提条件であることを忘れてはならない。

  体軸がとれないフォームで行うエクササイズは、
  身体に問題を生じる


体軸を修正するアプローチ
 体軸を修正するホリスティック・コンディショニングのアプローチの一つに、『軸圧エクササイズ』 (詳しくは「ホリスティック・コンディショニングNo.1」スキージャーナル社刊)がある。マンツーマン指導では簡単かつ有効であるが、ここで紹介するテクニックは、歪みのパターンさえ判ればソフトギムを利用して自分自身でも修正することが可能なものである。

股関節―骨盤帯の自動修正アプローチ
 股関節の左右の歪みは、骨盤-脊椎の歪みに直結する。股関節は少々の歪みは自分自身で感知できないこともあり、問題は慢性化する。その結果、内蔵機能障害の問題を引き起こすメジャー・ポイントになっていることが少なくない。
 それゆえ、中高年クライアントに指導することの多いパーソナルトレーナーにとって、股関節―骨盤帯へのアプローチは疾病予防の観点からも重要である。

 仙腸関節を修正するには、まず骨盤帯の動きに大きく関係する股関節―大転子の左右バランスをとれるようにすることが、ソフトギムでの体軸アプローチの第一歩となる。具体的な運動方法は、前回紹介した足・足根骨―膝関節及び股関節までの手順を踏んでもらう(前回参照)。
 さて、次に仙腸関節の機能不全(関節機能障害)があると様々な筋抑制・弱化が見られることになるが、その代表的な筋として 『大腰筋』 を用いての筋力テストを行なう。

(筋力検査) 
 足先をやや外旋して、膝を伸ばして脚を屈曲・外転位で検査する。外転の大きさは大腰筋の付着部位によって変化する。
 そのポジションからやや内方へ押圧しながら筋の抑制反射をチェックする。(恐らく、選手・クライアントの50%以上に機能不全の問題が見出されるであろう)。

     

(弱化側の修正方法)
 大腰筋の筋力検査で筋抑制・弱化が明らかになったら、それを修正する。
手順その1
 ソフトギムの上に脚を載せて、
 股関節外旋位で下方に 秒間程度押圧する。

手順その2
 次に、
 股関節内旋位で、下方に秒間程度押圧する。

以上を終えたら、再度大腰筋の筋力検査を行う。パワー発揮能力が大きく改善されていることを確認する。

註:筋力検査で、両側とも筋の抑制・弱化が見られる場合は、頚椎の問題である。頚椎への修正アプローチを先に行わなくてはならない。(頚椎の修正アプローチについては次回参照)

(仙腸関節下部耳状面へのアプローチ)
 仙腸関節のひっかかりには、上部と下部の耳状面にそれぞれアプローチする。上部は、前号で紹介した軸圧をかけてのバランスド・スクワットで関節への意識性の高い選手なら可能である。つまり、正確なスクワット動作が身についている、仙腸関節の可動性を感じ取れる選手・クライアントなら、今までのアプローチで機能性を回復できる。しかし、下部耳状面へのアプローチでは、垂直面の軸圧だけでなく、股関節の外旋方向への圧をかけることが求められる。

次回に続く

                                        2004年  執筆 矢野 雅知