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ソフトギムによるセルフ・ジョイント・コンディショニング3

(ホリスティック・コンディショナーのテクニック公開)

ある全日本選手の落とし穴
 バレーボールの大型アタッカーとして、一躍日本の代表選手に育ったある選手がいる。ぜひこの目で確かめてみようと、岩間副理事長が久々に日本リーグの試合を観戦した。が、パワーが抜けてクロスコートに打てない姿を目前にして、試合後の控え室でその選手を分析した。
 試合中に「スパイクが前方に流れている!」と幾度も監督が注意を促す声が聞こえていたが、案の定、体軸がズレており、肩甲骨ポジションにも問題があり、肩鎖関節、胸鎖関節が正しく稼動していなかった。そして何よりも頚椎の不正があり、フィジカル・コンディションが監督のアドバイスを受け入れるレベルになかったことを、改めて指摘した。控え室で修正したら、すぐに 「打てるようになった」 と監督もその相違に感嘆した。

動きの中で問題点を分析する
 日本ホリスティックコンディショニング協会の公認指導者である 『マスター・ホリスティックコンディショナー』 は、現在私(矢野雅知)を含め、岩間徹副理事長、安田栄一理事の3名である。『マスター』 としているのは、我々がひとつの到達目標としてきた 「動きの中で問題点を分析・把握する」 ということが、まがりなりにもクリアーできているからである。
 骨盤の傾き、股関節の問題、膝関節の機能障害の存在などは、直接身体に触れずともある程度の分析は可能である。例えば、テレビ画面で投手のピッチングを見ながら、「肘の尺骨側に機能異常がある」 「踏み込み脚の膝に問題が生じている。このままでは軸がブレてコントロールが乱れる」 など、本人の自覚症状がない問題も事前に察知して、それ以上に機能低下を来たすことのないように、対処し得るということでもある。まだまだ不十分ではあるが、ホリスティックな観点からアプローチすることで、指導のレベルが上がることは確かである。それはまた、外傷や障害を来たしてしまう前に、原因対処で未然に防ぐことのできる――我々が目標としているひとつの到達点でもある。

 このことに焦点を当てたのは、我々の悔悟と反省に起因する。未熟さ故に、過去には筋弱化―機能障害を解決しないまま、多くの選手を試合の場に送り出してきた。「頚椎に問題がありそうだが、何とやってくれるだろう」 という安易な気持ちが常に片隅にあった。問題箇所にも気づかないままに放置したケースも多々あったであろう。  だが、多くのスポーツ指導者が避けたがる頚椎へのアプローチで、我々が悔いてきた問題を解決して、選手やクライアントがベスト・コンディションで臨めるようにしていただきたいとの思いから、今回は一般人はもとより、多くのスポーツ選手が筋弱化という問題を抱えながら、現場では解決しないままに放置されることの多い 「頚椎」 に焦点を当てたいと思う。

スポーツ機能障害と頚椎 
 頚椎の不正は、上半身筋群のパワー低下をもたらすキーポイントである。ベンチ・プレスやショルダー・プレスなどでは、本人の自覚が無くても最大パワーの発揮が抑制されているであろうし、本来であればチンニングが10回できるはずが5,6回しか行えない――という状況になる。
 残念ながら、アスリートの多くが頚椎の問題でパワーが著しく低下したコンディションでトレーニングを行っている。当然、期待した効果は望めない。いや、後頭骨の問題も含めると、パーフェクトなコンディションでトレーニングを行い、試合に臨んでいるアスリートの方が圧倒的に少ないであろう。曰く 「首に違和感がある」 「頚が詰まった感じがする」 「力が入りづらい」など――。
 だからこそ、このような問題に対処し得るホリスティック・コンディショナーの存在が、切実に求められているのである。

ローテーター・カフと頚椎
 フィットネスの指導現場では、高齢者や半健常者を対象としたアプローチが大きな要素を占めてくるが、高齢者などではこの頚椎の問題が顕在化する。実際、肩に違和感を持つ高齢者は、きわめて多いであろうし、肩関節機能異常に悩むアスリートにしても、相当な数に上ると推定される。その大半のケースにローテーターカフ(回旋腱板)が関与している。上肢―肩甲帯では、上腕骨頭が肩甲骨窩の中に正常に入り込めるように、棘上筋や棘下筋などのインナーマスルが動作の最初に働いて機能しなくてはならない。この骨頭の正常な動きが伴わない限り、正常な神経―筋機能は発現しない。つまり、筋弱化・パワー発揮能力の低下を来たしてしまう。
このローテーター・カフが正常に働かない要因の多くに、下部頚椎の不正が見出される。肩関節は、「肩甲上腕関節」 「肩鎖関節」 「胸鎖関節」 および肩甲骨が胸郭上を動く 「肩甲胸郭関節」 の4つから成るが、この関節の機能障害が実に多い。その大半が、肩関節がメジャー・ポイントではなく、頚椎を含めた体軸不正に帰する問題となる。例えば、胸郭出口症候群の代表的な 「斜角筋群拘縮」 やベンチ・プレッサーに頻発する 「小胸筋拘縮」 においても、まず体軸を整え頚椎の歪みを修正しないと、一時的な解消アプローチに終わってしまうことが多い。

頚椎の抑制パターンのチェック 
 では、簡単にできる頚椎のチェックを行ってみよう。すでに紹介した拇指―小指での0リング・テストで、
■ まず最初に、筋力レベルをチェックする。
■ 次に、頚椎の 「伸展―屈曲」 「右回旋-左回旋」 「右側屈―左側屈」 のそれぞれ最大ポジションで筋力のチェックをする。
■ 筋力の弱化があれば、頚椎に何らかの問題が在る、と判断される。

頚椎の伸展テスト 頚椎の回旋テスト 頚椎の側屈テスト

 実際には、「回旋」-「側屈」 動作に伴う屈曲角度・伸展角度で頚椎の上部―下部が判断されるが、ここではそこまで考えなくてもよいであろう。しかし、ホリスティック・コンディショナーなどのスペシャリストがいるのであれば、頚椎の動きから問題箇所を把握されることが望まれる。

頚椎のモーション・パルペーション
各頚椎関節突起(横突起)に拇指を当て、頚椎の動きをチェックする。

 さて、頚椎の歪みの程度であるが、大きいほどその椎骨に関わる筋群や運動反射などにマイナスの影響が出る。例えば、頚椎4番から7番の下部頚椎に不正があれば、ベンチ・プレスやショルダー・プレス、チンニングやアーム・カールなどのエクササイズのみならず、野球のピッチングやテニスのサービスなど、様々な場面での何らかの抑制を伴うことを覚悟しなくてはならない。いや、横隔膜機能低下に伴って、エアロビクス系アスリートのパフォーマンスに悪影響が出る可能性もあるであろう。
 冒頭紹介したように、単なる体軸不正で競技パフォーマンス低下を来すのであれば、元凶となる問題点を取り除くことによってそれは解決する。
 そこで、ソフトギムを用いて、自分ひとりでも頚椎の問題点を修正することが可能な方法を紹介する。

アプローチその1:下肢―体幹の体軸修正
 すでに紹介してきたエクササイズによって、下肢―体幹の体軸を整えておくことが前提となる。
 頚椎のみのアプローチでは、通常、下肢のねじれ―股関節のねじれ―骨盤回旋のねじれなどによって、頚椎―後頭骨でこれらから生じるアンバランスを修正しようとする身体反応によって、再びブレが生じてしまうからである。 上部頚椎を整えることで、人は快適なバランス能力を保持することが可能とする捉え方もあるが、一般人と異なり、とくに片側性の運動を強いるアスリート(ゴルファー、野球、テニスプレーヤーなど)では、頚椎だけではなく、下肢を含めた体軸確保が重要な要素となる。(下写真 片側性アスリートでは、体軸の不正にとくに注意を払う必要がある)




アプローチその2:頚椎屈曲の修正方法
 ソフトギムを、顔から額にかけて壁(または台)に押し当てるように、3秒間のアイソメトリックスを最大伸展位から最大屈曲位まで、各関節角度で行う。4ポジション程度行うことでよい。


前頭部をソフトギムに押し当てる。


アプローチその3:頚椎伸展の修正方法
 ソフトギムを、後頭部で壁(または台)に押し当てるように、3秒間のアイソメトリックスを最大屈曲位から最大伸展位まで、各関節角度で行う。4ポジション程度行うことでよい。

後頭部にソフトギムを押し当てる 側頭部にソフトギムを押し当てる

 以上の2エクササイズで、かなり改善されると思われる。可能であれば頚椎のモーション・パルペーション(前記写真参照)でチェックされるとよい。ほぼ正常な椎骨の動きが回復していることが察知されよう。
 また、剛直な側屈―回旋で最初に行ったチェックでかなりの筋弱化が確認された人は、弱化した側にソフトギムを押し当てるエクササイズで、簡単に修正される。

 さあ、以上のようなアプローチでコンディションが整ってきたところで、トレーニングや試合に臨めることになろう。
                                                    (了)

                                      2004年  執筆 矢野 雅知