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腰痛改善へのアプローチ

医学常識の問題点  
 腰痛とは、「直立二足歩行の人類永遠の課題である」といわれている。四つん這いのハイハイをしている腰痛に悩む赤ちゃんがいる、というのは聞いたことがない。しっかりと二本足で立ち、赤ちゃんを抱きかかえているお父さんが、泣きそうな顔をして腰痛に耐えている。そう、楽しい人生が、腰が痛いがために憂鬱な気分から開放されないままに過ごす人が、周囲を見渡せば必ず数名はいると思われる。特にスポーツ界では、腰痛が好転せずに引退を余儀なくされていった選手は、あまりにも多いことは承知のとおり。
 それほどに腰痛の問題は時に深刻な事態を招く。

腰椎ヘルニアは、腰椎の問題か?  
 引退は現役のプレーヤーである限り、必ずいつかは訪れる。加齢に伴う身体能力の自然の低下であれば諦めもつこうが、怪我や腰の鈍痛が解消されずに引退を余儀なくされるのであれば、悔いが残るであろう。
 「このままでは、ヘルニアの手術をしない限り無理です!」と医師に宣言され、1シーズン棒に振るか、痛みをこらえながら何とか最後のフィナーレを飾れないかとの選択を迫られる選手に、三度遭遇している。そのいずれもが、手術を受けることなく現場復帰を果たしている。私が治療したのではない。ただ、メジャー・ポイントを指摘して、その箇所を改善するようにアドバイスを行っただけである。結果、腰部へのストレスが激減し、復帰を果たすことになった。

 医師は、多くの場合腰痛を腰椎そのものの問題として処理しようとするように思われる。画像診断により、腰椎のどこにストレスがかかり、どのような状況に陥っているかの診断を下してくれる。その結果、椎間板が変形していることが原因です、と明確な答えも示してくれる。また、痛みを解消するためのブロック注射を行ってもなおも痛みが残るのであれば、最後の手段として手術を薦めるというのが、典型的なパターンであるようだ。

問題は、症状よりも原因
 しかし、これではなぜ腰椎にストレスがかかっているかという根本の原因は説明されていない。
 「このような姿勢が・・・」「・・・だから、腰椎のこの部位に過大なストレスが加わって・・・」という原因―結果のスジの通った説明が不足している。我々が知りたいのは、なぜ痛みや機能障害が生じてしまうのか、という根本の原因である。

 「さんざん検査で時間を費やされたあげく、ヘルニアです。だから痛みがあるのです、と言われたが、そんなことは分っている。知りたいのは、なぜヘルニアになってしまったのか、ということだ。」
と息巻いていた人がいた。
 確かにそうであろう。足までしびれが出て、ストレート・レッグ・レイズやゲンズレン・テストなどで、ある程度は素人でも判断可能なテストで、およその判断は下している。知りたいのは、どうすればその問題が解決できるのか、ということなのである。

柔軟性増大が腰痛軽減になる?
 よく医療関係者が言われることは、身体が硬すぎるから腰痛などになりやすい。だから、ストレッチをしっかり行えば腰痛など起きてこない、という意味のことが強調される。
 確かに間違いではないが、それが全てでもない。立位体前屈で、床まで20センチ以上も離れた極めて身体の硬い女性アスリートを、幾人も見てきた。その中には、ハードなトレーニングや試合を続けていても、腰痛は皆無で現役をまっとうした選手も含まれる。
 一方、身体が柔らかく、運動もしっかりと行っているインストラクターでも、腰痛で悩まされている人は多い。長座体前屈では、べったりと大腿部の上に腹部がついてしまうほどの過度の柔軟性をもってしても、腰痛の魔力から逃げられないのか。

 柔軟性の研究では、ボブ・アンダーソンの『ストレッチング』(1975)が世界的に大きな影響を与えてきたが、彼は「柔軟性が高まれば、(腰痛などの)傷害の発生率は低下する」としている。それを裏付けるかのように、当時の競技チームではストレッチングの導入により、大幅に外傷・障害の発生率が低下したとする報告が多かったように思われる。これは今日でも同様であろう。
 それに対して、柔軟性と傷害の発生率に因果関係を求めるのはナンセンスであり、柔軟性向上が直ちに傷害の発生率の低下に結びつくわけではない、とする主張も少なくなかった。いや、柔軟性が高まるほど、傷害の発生率もまた高まるというデータを示す文献もある。
 だから、ホリスティック・コンディショニングでは、関節可動域に関わる問題を、『ファンクショナルROM』と『ノン・ファンクショナルROM』に分けて論じているのである。

 視点を戻そう。身体が柔らかく、長座体前屈でも優秀なインストラクターなどが、なぜ腰痛に悩まされることになってしまうのか。
 その要因には
■ 腰背部のオーバーユース
■ 仙腸関節の機能不全
が大きく関わってくるであろう。
 前者のような、いわゆる筋筋膜性腰痛であれば、時間の経過と共に腰痛は治まってくる。しかし、後者はそうではない。常に腰の問題で悩みを与え続ける元凶となる。
 次の写真を見ていただきたい。ストレッチ・レベルのみで判断したら、柔軟度は非常に優秀である。しかし、写真で分るように、腰椎―胸椎(注目は下部腰椎)の椎骨が正常なカーブを示していないことが、ご理解いただけるであろうか。



 仙腸関節は、仙骨と腸骨の接する面である。この面(関節)を耳状面と呼んでいる。耳状面の形状は人によって個人差はあるが、上部と下部の2箇所で接している。この関節面の「ひっかかり」 「ゆがみ」などが、大きな問題を生む元凶であることは間違いないであろう。
 ただ、なぜ仙腸関節がロックしたり歪んだりするのかを考えると、必ずしも仙腸関節が1次性の問題とは限らない。ホリスティックな立場からアプローチすることによって、原因とも言うべき問題点が浮き上がってくるので、この点は考慮しなくてはならないであろう。

仙腸関節の可動性の可否
 さて、腸骨と仙骨がなす仙腸関節の、正常なジョイント・プレーを確保できれば、前述の腰痛持ちインストラクターの状況は変わっていたかもしれない。というのは、仙腸関節は可動性のある関節なのか、それとも可動性のない関節なのか、という点では、いまだに大多数のメディカル・ドクター(医師)と手技療法に関わる方々(カイロプラクター、オステオパシスト、整体師など)とでは意見の一致を見ていないからである。
 前者は概ね、
「たとえ動くとしても、1ミリもあるかないかの可動性では非可動性関節に等しく、動かない関節として対処するのが妥当である」
としており、後者は
「仙腸関節は可動性関節である。(1ミリに満たない動きであっても)このわずかな可動性を確保することが、仙腸関節の機能性を確保することになる」
という立場に立っている。
もちろん、メディカル・ドクター(医師)の中には仙腸関節を可動性関節として捉え、可動性を確保するためのアプローチをする方々も少なくない。しかし、大多数のメディカル・ドクター(医師)と手技療法に関わる方との、両者の大きな相違が、この点にあることは間違いないであろう。
 メディカル・ドクター(医師)でありカイロプラクティック・ドクターでもある竹谷内医学博士は、今年になって初めて、わが国の整形外科学会の機関誌(だと思うが)に、カイロプラクティック・ドクターとしての立場から腰痛に関する一文を掲載したという。その中で竹谷内博士は、
「(いずれにしろ)現状のアプローチ(仙腸関節を非可動性関節として、対象外とする)を続ける限り、常に腰痛は整形外科医にとって対処困難なものとなる。」
と、意識の変革を迫る結語にしたということである。

仙腸関節は面圧で動く
 確かに仙腸関節は、死体から骨を取り出して動かそうとしても、まったくといっていいほど動かない。この関節にかかわる靭帯がガッチリと保持しており、乾燥した人骨では人間の力で動かそうとしても困難であるとされる。
 だが、生体は乾燥した骨ではなく、生身(なまみ)の骨面では潤滑理論が生きてくる。スキー板が「なぜ雪面を滑るのか」という研究によると、雪面に圧力がかかると雪の結晶面が潤滑剤のように働いて滑るとされる。つまり、斜面にスキー板を置いた程度では滑らないが、人が載って雪面に圧力がかかると滑り始める。
 仙腸関節も、これと同じである。関節面に押圧をかけることによって、微小な『スライド(またはグライド)-滑りの意』の動きが生じる。この動きを生む的確な方向へ圧をかけることでジョイント・プレーを回復することが可能である。
 仙腸関節のジョイント・プレーを回復するためのアプローチは様々である。

カイロプラクティック・テクニックの典型的なディバーシファイド・テクニックでの仙腸関節アプローチ。高速スラストを用いてアジャストする。

 オステオパシーでも高速スラストを用いてのアジャストもあるが、筋肉面からのアプローチをする場合も少なくない。オステオパシーではPNFでいう『ホールド・リラックス法』を用いる。
 PNFのオリジナルな文献では、アイソメトリックスの筋出力を最大もしくは最大に近い力の発揮を求めているが、指導現場では「最適抵抗」として、クライアント本人がもっとも適したレベルの力を発揮させることを基本としている。
 これに対してオステオパシーではPNFのホールド・リラックス法と同様なテクニックを主体とするが、クライアント本人が発揮するアイソメトリックな筋収縮は格段に低い。20~30%程度である。実際にこのテクニックで行っても十分な効果が期待できるので―――つまり、小さな抵抗でも腱紡錘・筋紡錘の固有受容器を刺激できるので、筋を弛緩できることが分かる。

 このことを言い換えれば、筋・腱の固有受容器を刺激する神経―筋レベルでの筋線維のストレッチ(弛緩)は、骨盤―仙腸関節の機能性を回復する手段ではあるが、これだけでは効果の永続性に疑問が残るということにもなろう。PNFテクニックや筋エネルギー・テクニックに類似する「操体法」も、名人が行えば大きな効果を示すのであろうが、通常レベルの我々が行う程度では、やはり仙腸関節のジョイント・プレーを回復することは難しい。
 関節面の引っ掛かりが残り、それがやがて歩行動作などに反応し、他のメジャー・ポイントの影響を受けてしまう。いや、それは当然といえば当然でもある。仙腸関節とは、人体で唯一の筋支配を受けない関節であるからだ。したがって、筋アプローチでは限界がある、といってよいかもしれない。
 ただし、陸上や水中でのナンバ歩行では、実際に仙腸関節のロックを外すことが可能であることは、自分自身の現場体験から断言できる(この点については、今後の適切なアプローチを皆様と共に考えて行きたいと思います)。
 また、カイロプラクティック・テクニック(ディバーシファイド・テクニック)の高速スラストを用いてジョイント・プレーを回復しても、やはり筋肉の拘縮が強いと、比較的早く元の状態に戻る。言い換えれば、筋肉面からのアプローチも関節面(骨)のアプローチも、それぞれ一長一短があると思われる。
 だが、両者を複合すると効果は大きい。だからホリスティック・コンディショニングのアプローチでは、両者の複合テクニックを推奨することが多くなっている。さらに言えば、筋アプローチでは、PNFテクニックも筋エネルギー・テクニックも操体法も、すべて固有受容器反射を利用している。
 「ホリスティック・コンディショニングNo.1」(スキージャーナル社)でも再三にわたって述べているが、関節可動性に関わる筋のポイントは、筋線維よりもその筋線維を包んでいる『筋膜』にある。この筋膜へのストレッチを併用しないと期待される効果が持続できないケースが多いので、固有受容器に反応させるアプローチだけに終始せず、筋膜への効果を求めることが重要となる。この点は十分に認識しておく必要があろう。

  筋膜ストレッチ

 さらに付け加えておくと、拘縮筋への筋アプローチは、単純にストレッチだけで解決できない場合が少なくない。マイナス骨連鎖やマイナス筋連鎖によって、様々な反応が遠隔部位からの影響で出現するケースでは、その要因を排除しない限り、抜本的な問題は解決されないことになる。また、その関節に関与する筋群の固有受容器のノン・ファンクショナルな問題を内包している場合には、通常のストレッチでは解決できないであろう。
 具体的な諸例などは、「ホリスティック・コンディショニングNo.2」(スキージャーナル社未刊)に数多く書き込んでいるが、ここでも順次紹介していきたいと考えている。
                                                      文責 矢野 雅知