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人体の磁性を考える
出生地の方向-脳(海馬)の原始反射
イスラム教徒の多い国を旅して疑問に思ったことがある。彼らは決められた刻限には聖地メッカに向かってひざまずき、アラーの神への儀式を行なう。それが繁華街の中であっても、イスラム教徒であれば地べたに座り込む。不思議に思えたのは、どこが聖地なのか見当もつかないような場所(荒涼とした原野であった)でも、やはりその儀式を行なっていたことである。私は、どうやって聖地の方角を知り得たのか、という素朴な疑問が頭から離れなかった。
ホリスティック・コンディショニングの講習会をお受けいただいた方はご理解いただけると思うが、人体は出生地の方向に身体の正面を向けると筋が弱化する。これを「磁気反射」と呼んでいるが、海外で日本の方向を探すにはこの磁気反射を利用すれば簡単である。筋が弱化する方向に生まれ故郷の日本が位置するからである。
イスラム教徒が聖地メッカの方向に近い場所で出生するのであれば、この疑問は氷解する。ならば、我々日本人は海外にいても伊勢神宮の天照大神に向かって拝礼することができるのではないか……漠然とこんな思いが駆け抜ける。と同時に、なぜ生まれ故郷に戻るのに筋が弱化するのだろうか?という新たな疑問が残る。
帰趨本能は原始反射とどう関わるのか?
鳥でも魚でも帰趨本能がある。当然霊長類の頂点に立つ人間であっても、帰趨本能がないわけがない。大昔は狩猟に出て、棲家に戻ってこなくてはならない。日本人のような農耕民族は一箇所にとどまる傾向があるが、西洋人に代表される狩猟民族は、何日間も狩に出て、野山を彷徨いながらも故郷には戻ってくる。星の位置を見れば方角が判る。しかし、磁気反射を考えたとき、夜の星座や星の方位を見ることのできない昼間であっても、帰るべき方向だけは認知できる。海洋民族は確かにそうであろう。
鳥は自由に空を飛び回ることが出来るが、渡り鳥以外は基本的に彼らのテリトリーの中で生きている。「今日は北海道、明日は鹿児島でも行ってみるか…」とつぶやくスズメやカラスが存在した、という記録はない。人もまた、本質は変わらないのではないか。昔の人間は、その土地に生まれ、その土地で育ち、そして、その土地で死んでいった。旅することはあっても、狭い範囲に留まっていた。遠出しても、一目散で我が家を目指すのは、農耕民族の性(さが)なのか。放浪性は通常ない。『ゲルマン民族の大移動』といっても、所詮は東京駅の一日あたりの乗降客数程度に過ぎない。今とは違って、過疎地での部族の移動である。
一方で、出生地エリアに留まっていれば、顕著な筋弱化は起こさない。磁場の悪影響も最小限であるように思われる。なぜだか解らない(この点については、今後の研究なり検証なりが必要となる)。
我々のDNAには、どんな情報が組み込まれているのであろうか。仮に……あくまでも仮の話であるが、0(ゼロ)磁場もしくはその周辺に生まれた人と、送電線の下や電磁波が過剰に飛び交う施設の周辺で出生した人では、そのDNAのもたらす情報なり、反応なりが異なってしまうのであろうか?
そのことと、成人してからの各種の反射や人生観にも影響が及ぶのであろうか?……DNAに刻まれた遺伝子は、成人してから突如発現するものもあるし、何が起こるか解明されていない。ま、考えてもよく解らない。(情報があれば教えていただきたいと思います。)
地球はN極とS極の電磁場の流れから、すべての生命体が何らかの影響を受ける。人体は、南に向けて正対すると最もよい磁場を受けることになり、古今東西の戦略家といわれる人々は、無意識のうちにも戦いに臨む際には、単に地形からだけでなく、磁場の影響の観点から、敵に北側を向いて戦わせるように誘導した、といわれる。筋弱化をもたらすことが、大きなポイントになったからだと推測される。
故郷に帰るのに、なぜ弱化するのか?
疑問とは、なぜ生まれ故郷の我が家を目指すのに筋が弱化するのか?ということである。
サケは生まれ故郷の支流に回帰して息絶える。未だその生態は不明であるが、天然のうなぎは、遥か彼方の深海を彷徨ったのちに、最後には生まれ故郷の川に回帰するといわれている。人間もまた、故郷を離れていても望郷の念を強く抱くのは、海馬に存在する磁場の影響があるのだろうか。
人間を磁性体としてみると、出生地に留まることが最も機能することになるかもしれない。そして、出生地から離れれば離れるほど機能性が低下して、筋弱化する現象が強く現れることになる、と思われる。『ホームシック』は単なる言葉の遊びではなくて、人体における原始反射が少なからず影響されていると思えてならない。現時点での理解不能な問題も、いずれは解き明かされる日が来るであろう。
咸臨丸で亜米利加を目指した乗員の中に、「おらァ、故郷(くに)さけえりてェ、けえりてェ!」とつぶやきながら船中で亡くなった者がいる。ホームシックと船酔いが主因であるが、DNAのもたらす反射的弱化が少なからず影響していると思えてならない。こんな悲惨な最期は迎えたくない、と強く思う。
私は、異国の地で花開く人生よりも、やはり生まれ育った日本で、平凡でも静かに暮らしたいと思っている。
平成16年9月 文責:矢野 雅知