コラム30
コラム30 生体エネルギー循環と体軸 その1
『その道を学ぶものは、その道を好む者に如かず』
という孔子の言葉がある。至言である。
私はその昔、筋肉に関してとことん追及しようと考えて、まだNSCAジャパンが設立されるかなり前から、米国の「NSCAジャーナル」やACSM関連の{スポーツ・メディスン}などの雑誌や、筋トレに関わる書籍などを定期購読していた。
現在のNSCAジャパンが組織されると、参画して10年間理事を務めたが、『ピリオダイゼーション』や『最新システム/メソッド』などを含めて、目新しいものは少なく、少々倦怠気味であった。
海外から招聘されるゲストの講演内容なども
□ さらに新しい知見はないのか
□ コンディショニングの定義をもっと広げて対処した方法はないのか
と期待しながらも、毎年お決まりのパターン化した内容に、コンディショニングの限界を感じていたのである。
その限界とは、
□ なぜ筋が抑制弱化するのか
というその理由がよく理解できないでいたからである。
そんなときに、AK(アプライド・キネシオロジー)に出会った。
創始者のジョージ・グッドハートは、初めて代替医療の治療家(カイロプラクター)として米国オリンピックチームのサポート・ドクターとなっている。その彼の示す筋機能についての一連のシステムが、書籍を読むだけではよく理解できなかった。
私は愕然となって、(自分の専門分野である)筋肉の機能が抑制弱化する現象の理由を解明するには、それを理解するためのベースとして、カイロプラクティックを勉強する必要があると感じ、カイロの専門学校に入った。
漠然と、自分の人生の後半は、安定した仕事を投げ打ってでも
「やりたいことをやる!」
と決めていたので、本職は多忙であったが、入校することに躊躇はなかった。
私の周りは「手に職をつけて開業できるし、未来は明るい」と勝手に決め込んでいる人が多かった。現在の仕事を止めて、独立開業して・・・・そんな夢をもって高い授業料を支払ったのであろうが、たちまち挫折して消え去った人も少なくなかった。
骨格や筋の名称も満足に知らない人が、予備知識もなく独立開業できるほど、甘いものではないことを、身をもって知ったのであろう。
授業内容は、当然ながらディバーシファイド・テクニックといわれる典型的なカイロ・テクニックを学ぶことである。
といっても、実際の治療では「緩和系マッサージ」で、筋をほぐして、気持ちよくさせて、後は関節を5分間程度ボキッバキッとやるスタイルが主流である。
患者の身体に触れるには、緩和系マッサージを身につけなくてはならない。皆一生懸命にマッサージ系のテクニックを行なっていた。だが、マッサージでは筋の抑制弱化の根本的な改善はできない。
ほとんどの方が緩和系マッサージテクニックの習得を目指していたが、私は、当初から体軸を正常化できるテクニックの習得以外には、まったく興味を持たなかった。私一人がどうやったら人の「身体を正常化して、筋機能を回復させることができるのか」ということに焦点を合わせていたのである。(そのため、インターン実習と称する期間、最後まで実際に患者に触れることなく終っている)
同期の受講生の多くは、明らかに「その道を学ぶ者」であり、今の仕事に不満があるので手に職をつけたいとの一心であるが故に、「その道を好む者に如かず」となっていた、と思われた。
仕事として金を得んがために筋肉の起始・停止を覚えようとするので、明らかに好きでもないことを仕方なく憶えなくては・・・・という意識が働いている。これでは脳に情報がインプットされていかない/いきにくいということが感じ取れていた。
好きでやっている人と、好きでもないのに手に職をつけておけば生活に困らないだろう・・・・程度の甘い考え方で学んでいる人との相違は、誰の目にも明らかになっていった。
この人は「残念ながらこの仕事には向いていない」「この人は学ぶ姿勢が違うから、モノになるだろう」という観察は、自分の中で出来上がっていた。自然とカイロが好きなもの同士は「場」を形成しており、一方、現在の自分の仕事に不満があって、その解消の手段の一つとして、カイロを学んでいる人たちの「場」も形成されていた。
そして―――
カイロの専門学校の指導者が、仙腸関節から脊椎までをボキッバキッとやっても筋の抑制弱化が正常化できていない現実を見て取れるようになってくると、何かが違うという疑問が大きくなっていた。
また、カイロの授業においては、最後まで実際に『スラスト』といわれるアジャストのテクニックは、身体を痛める危険があることから、行うことはなかったし、行なわせなかった。カイロ・テーブルに向かって、受講生たちは高速スラストをみんなひたすら行なっていたことを憶えている。
私は、テーブルに向かっていくらスラストしても、実際の人体を相手にした感覚とのズレの相違は大きいし、
□ 特異性の原則
というトレーニングにおける大原則が常に頭の隅にあるので、
「これでは、スポーツの現場では使えない。実際に人体にアプローチしたアジャストの感覚を身につけない限り、実用性がない」
と考えていた。
実用性がないという思いから、達成感が常に得られないという状況に陥っていた。
このことがあって、現在のホリスティック・コンディショニング講習では、「毎回必ず体軸を正常に回復させる」という実践テクニックを、最重視して実行していくことに繋がっている。
カイロの専門学校では、残念ながら「人を正常に治して、体軸をとる」という達成感は最後まで得ることができなかった。達成感がないので、好んで学んでいるつもりであっても、「楽しい」と実際に思えることがなかったのである。
後に、私は典型的なディバーシファイド・テクニックといわれるカイロ・スタイルは捨て去ることになった。
それは
□ 身体が(脳が)求めている刺激は、シンプルで最小限のものである。
□ 過剰な刺激は、体軸を崩す要因となり得る。
□ どのようなテクニックであろうと、要するに身体(脳)が求める最適な刺激とは、身体の自然治癒力を高めるものであって、体軸が正常化するものである。体軸が正常化しないテクニックは、身体(脳)が受け入れない。
という基本となるポリシーが確立できたからである。
体軸を正常化するものと、正常化しないもの―――という視点で多岐にわたるテクニックを診てくると、ボキッバキッというオーソドックスなカイロ系テクニックは、最適な刺激を身体に与えるものではない、という判断ができていた。
高速スラストで行なうアジャストは、細胞レベルではマイナスの要因となり得る研究があるし、実際に頚椎の高速スラストでは、訴訟にいたる問題が続出して、本場のアメリカにおいても他のテクニックに切り替える傾向があるという。
一例を挙げると、
□ 内側性の腰椎ヘルニアは、ランバー・ロールといわれる腰を捻って、呼吸に合わせてアジャストする典型的なテクニックを用いることは、危険性が伴うのでやめた方がよい。外側性の腰椎ヘルニアならOKである。
□ 脊柱管狭窄症はカイロプラクティック(デバーシファイド・テクニック)では禁忌である。医者の範疇である。
と、私は専門学校で教わったのである。
今では、内側性腰椎ヘルニアであろうと脊柱管狭窄症であろうと、まったく調整するのに問題はない。それを引き起こしている原因さえ掴めれば、対処できるし、対処することが我々に与えられた使命であると考えている。
実際、このような症状を示す多くのスポーツ選手を、現場で対処してきたし、それなりに満足できる結果を得ている。
多くの治療系テクニックを学んでいく上で、
□ 牽引(トラクション)の多くは、体軸を崩す要因となる(ただし、椎間板の牽引は除く)。
□ 技術解説書に示されるテクニックは、万人に効果があるわけではなく、個々に適応したテクニック/アプローチが存在する。
ということが理解できていたので、
「実用性のあるテクニック」と「実用性のないテクニック」を見極めることができるようになった。
スポーツ現場では、速効で身体を修正して、体軸を正常化してエクササイズを問題なく行えるコンディションに導かなくてはならない。そのための実用性のある最適な方法を探っていくことになった。
その当時、カイロの専門学校に入るきっかけとなった『AK(アプライドキネシオロジー)』は、内容が理解できるようになると、楽しくてしかたがなかった。
『その道を好む者は、その道を楽しむ者に如かず』
この言葉通りの心境であった―――と、当時を振り返ることができる。
これだけ楽しいと思えるのだから、このアプライドキネシオロジーは凄いと思っていたが、身体への理解が深まれば深まるほど、
□ AK(アプライドキネシオロジー)は、対症療法である。
という本質的な問題点が解るようになってきた。
ジョージ・グッドハートはすでに亡くなったが、世界中から膨大な資料を集めて、それを筋力テストで再構成して集大成したものがAKである。AKは、カイロにおける上級レベルの範疇に入っているが、対症療法であることは間違いない。これだけでは根本的な解決には至らない可能性がある、という視点が明確になった。
人体への本質的なアプローチは、
□ よりシンプルであり、シンプル・イズ・ベストである。
□ 脳が受け入れる刺激は体軸がとれるが、脳が受け入れない刺激は体軸が崩れたままである(全てのテクニックの良否は、この1点が絶対的な判断基準となる)。
□ 体軸が確保されるシンプルな刺激が、最も生体にとって適切なものとなる。
というホリスティック・コンディショニングにおける基本理念が確固たるものとなると、生体エネルギーに視点が移っていくようになった。
そして、私は気がついた。
当初は、「筋肉のトレーニング方法を極めたい」という『その道を学ぶ』視点から、トレーニングにおける様々な方法論(運動法や最適な負荷の設定方法論など)がある程度理解できるようになると、
一般論としてのトレーニング論ではなくて、各個人の個体差に視点が移り
□ なぜ、同じようなエクササイズを行なって、抑制弱化反応と過剰促通反応が示さ
れてしまうのか。
□ トレーニング方法を画一化できない根本的な要因とは、何か?
といった疑問点を、
(好きなことを自ら進んで)解明するために、様々なアプローチを試みるようになり、『その道を好む』段階に入っていった、ように思っている。
そして現在、
□ まだ一般論として確立されていない「生体エネルギー循環」と適切な運動法
について、
新たな視点でアプローチして、システマチックな方法論を確立したい、という意識が強く働いている。
これは楽しい。
日々新たな発見があって、人体の奥深さを知れば知るほど、それを追及する楽しさがたまらない。トレーニング方法論や治療系技術の習得とは、比べ物にならないほどわくわくする。
自分では『その道を楽しむ』段階に入っていると、勝手に思い込んでいる。
以前には、思いもしなかったスピリチュアルな面の探求から、真言密教や古神道・玄学などの書籍を垣間見ることが、楽しくて仕方がない。それらが皆、身体のコンディションを正常に保つ方法論に繋がって行くからである。
そして、
あらためて、我々は
「トレーニング方法論はもとより、西洋医学や西洋の代替医療(カイロプラクティックなど)などに囚われ過ぎてきたのではないか」
という思いが強くなってきている。
西洋医学や西洋の代替医療で明らかになってきたことは、すでに東洋においては
□ はるか昔に解明されている(気がついて、その対処方法も研究されている)。
□ 西洋の論理的な実践方法だけでは限界があるのではないか。
ということである。
我々は、ともすると「欧米諸国では・・・このように行なっている」とか「これが欧米における最新の捉え方である」などと、常にコンディショニングにおいては欧米の情報が最善のものであると思い込んできたきらいがある。
だが、
多くのスポーツに有効に活かせる反射点・反応点は、経絡のツボとして昔から様々な症状に活用されるだけではなくて、武道や武術にも応用実践されているものである。
スポーツ・コンディションに有効に活用できる身体の反応点の多くは、調べれば調べるほど、東洋においては、はるか昔から実際に活用されてきた賦活ポイントであることが理解される。
もちろん、東洋の叡智だけではまた、実践的な現場で対処しきれないことが多くある。
そのためには、
□ 西洋の理論と東洋の叡智を融合させて、新たな視点でのスポーツ・コンディショニング方法論を構築する必要があるのではないか。
というように考えている。
そして、
この中には、言うまでもないことではあるが、
□ コンディショニングを極めるには、スピリチュアルな面の理解・対処方法が含まれる。
ということである。
スピリチュアル・コンデョショニングの理解なくしては、『体軸の歪み』の原因にしっかりと対処できることはあり得ない、と現在は考えている。
このことは既に幾度も言及してきたが、実践的なスポーツ現場での対処においても、肉体ではなくて、霊体(エネルギー体)へのアプローチだけで、正常に体軸が回復してきた多くの実例がそれを物語っている。
実際に、アカデミー・アドバンスコースの参加者は、一般人と比べて肉体レベルは優れている。それでも体軸が崩れているとき、霊体(エネルギー体)に対処するだけで、ほとんどの方が正常な体軸に回復する。
従来のコンディショニング理論には、霊体(エネルギー体)への対処を融合したコンディショニングや方法論は存在しない。
そのために―――新たな視点に立ったホリスティック(包括的)なコンディショニングが必要となる、と思われるのである。
ここをシステマチックに追求しようと思えば思うほど、楽しくて仕方がないのである。日々新たな発見があるので、わくわくする―――といっても、独りよがりな観点であるので、もう少しこの点について具体的に記してみたい。
平成21年6月1日記