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コラム32

上級レベルのパーソナルトレーナーの到達点

 あらかじめお断りしておかなくてはならないのは、ここで「上級レベル」としているのは、私個人の考え方であって、パーソナルトレーナー養成に関っている他の組織や他の方々の考え方や、一般的な概念とは異なるかもしれない、ということである。
 「上級レベル」と定義してしまうと、「初級や中級レベルはどう定義するのか」となってしまう。それに、その区別は誰が定義するのか―――など、様々な異見が噴出する可能性がある。
 本質的に、パーソナルトレーナーは、本人のキャラクターやパーソナリティが大きく影響するので、本来的には他のレベルと比較すべきものではないかもしれない。

 だから、ここで「上級レベルのパーソナルトレーナー」というのは、本協会公認資格である「上級ホリスティック・コンディショナー」に通じるものがある、とご理解いただいて、本コラムをお読みいただければ幸いである。



 パーソナルトレーナーはまず、キャラクターやパーソナリティといった個人的な資質は除いて、技量面でクライアントが「満足できる」指導を行えるレベルになくてはならない。
 そのためには
● クライアントの体軸を確保できる。
● エクササイズ実施時に、体軸を確保できるパワー・ポジションに導ける。
 ということが前提となる。

 このことは、パーソナル指導に関わらず、自分自身でのエクササイズ実施においても、基本となる。

 体軸の確保ができないと、
● エクササイズを、正常な状態で行なうことができない。それ故、運動効果・運動効率が低下しているので、十分なトレーニング効果を期待できない指導となってしまう。
● また運動後の回復能力を高めるためには、体軸が崩れて、いわゆる身体が歪んでいると、正常に身体の諸器官が機能しないので、不快な感じさえ残してしまうことになる。
 つまり、
 体軸を確保して、生体エネルギー循環を正常にして、最も身体パワーの発現能力が高いコンディションにすることによって、最適な運動機能を確保することが、エクササイズを行なううえでも、またスポーツ競技を行なううえでも、さらに言えば―――日常生活を最適に過ごすためにも、最も基本となるものである。
 それ故に、
● エクササイズの実施時には、まずほとんどのクライアントの体軸は崩れているので、体軸を確保して、『パワー・ポジション』に導いてやれる能力が要求されるのである。

 私自身の経験から言うと―――クライアントの体軸をしっかりと確保してエクササイズを行っているパーソナルトレーナーには、めったにお目にかかることはない、というのが正直なところである。
 もちろん、クライアント本人は「体軸が確保された姿勢・状態」といったものは、鍛錬度の高いアスリートを除いては、ほとんど解らないのではないかと思われる。

 一般的レベル(ここでは、あえてこのような表現をする)のパーソナルトレーナーであれば、
● 体軸の確保ができるか否かのチェックが行えず―――体軸が確保できないが故に、通常の負荷がきつければ、「今日はあまり体調が良くない」と判断し、楽に行えるようであれば、「体調が良い」「トレーニング効果が上がった」との、短絡的な判断をしてしまう。
● パワー・ポジションに導けないので、筋の抑制弱化した状態でエクササイズを行っていることが、判断できない。
● 運動終了後は、過緊張した部位を、「ストレッチ」や「マッサージ」系で揉み解して、クライアントを気持ちよくさせることで「満足感」を引き出そうとする。
 ―――ということが、多いのではないかと思われる。

第三者として、実際にパーソナル指導を行っている現場で観察すれば、
● 身体が嫌がっている姿勢でエクササイズを行なっている。
● 体軸が崩れた姿勢―――つまり、身体が歪んだ状態でエクササイズを行なっている。
● それ故、エクササイズ実施において、筋線維の発現能力が低く、運動効率が最適でない状態で行なっている。
 というのは、直ぐに判る。
 だから、
この状態でエクササイズを行っていると―――
● さらに身体の歪みが増して、体軸が崩れてしまう。
● 体軸が崩れた状態でエクササイズするので、正常なキネマチックチェインが働かない。
つまり、
マイナス筋連鎖・骨連鎖を引き起こすので、
● ターゲットとしている筋群を、効果的に鍛えられない。
● その状態でエクササイズを継続することで、他の運動動作(例えば、ランニング動作など)に、悪影響をもたらす可能性がある。

 このことを、一例を挙げて説明する。
 あるスプリンターのタイムが伸び悩んでいた。ある機関での動作分析や筋機能分析の結果は、特別に指摘されるところがなく、
● やや疲労気味であることから、オーバートレーニング症候群によるプラトー現象
 として処理されていたという。
 このアスリートがスプリントするところを見る機会があった。
 関係者は
 「彼には期待しているんですが、期待通りの走りができないのです・・・・」
 と言っていた。
 私は、
「左の大臀筋―ハムストリングスと、それに関連するカーフ(キック力の主要筋)といった筋群が、走るという動作で、正常に機能していませんね。」
 と、指摘した。
 このようなやりとりがあって、実際にそのアスリートをチェックすると、
● 単一の筋群をチェックすると、すばらしい筋機能を示す。
● ところが、動作機能をチェックすると、マイナス筋連鎖・骨連鎖(マイナス・キネマチックチェイン)を引き起こしてしまい、主要筋となる左のキック力が低下してしまっている。
● また、大腰筋などにも大きなマイナス筋連鎖があって、正常に機能していないことが判明した。
 では、
スプリント動作機能を大きく損ねている原因とは、何なのか?

 そのアスリートは、スプリント時にやや頭部の位置が傾くことがある。これが
● 機能的な非対称性
 であれば、問題はない。

 「機能的な非対称性」とは―――
 スプリント能力を高めるために、左右の姿勢や筋群などにアンバランスが生じていても、主体となる『スプリント動作時には最適に機能する』状態になるものを指す。
 これは、
 スプリンターだけではなく、「アイスホッケーのアスリート」「カヌーのアスリート(特にカナディアン競技)」などで、幾度もアンバランスな状態のアスリートに遭遇したが、それがその競技特有の動作に関るもので、実際の本競技でしっかりと体軸がとれて機能しているものであれば
● その機能性を最大限に発揮させるために、それを伸ばしてやるほうがよい。
● 単一動作だけでチェックすることの多い、一般的な医科学的なアプローチでは、このことは十分に解析されえない。

 このアスリートは、後頭骨下の右側筋群の異常が、
● 左側の下肢にマイナス筋連鎖していた。
● それは同時に、環椎に関るマイナス骨連鎖を誘発していた。
 この異常は、ホリスティック・コンディショニングに関っていると、頻繁に見出されるものである。習熟したコンディショナーであれば、すぐに察知できるであろう。
 これが、いわゆる『構造的な原因』となって、
● 左下肢のキック能力及び股関節伸展能力の低下
● 右下肢の股関節屈曲能力の低下
 を生み出している、と私なりの結論をくだした。
 実際に、
 その異常部位を正常化して動作を行なわせたところ、
● 全ての動作は正常化した。

 このことによって、
「構造的な問題」はある程度は解決されたように思われたが、まだ「機能的な問題」は解決されていない。
 つまり
● どうして、右側の後頭骨下筋群や環椎の歪みがもたらされてしまったのか?
 という機能的な原因が解明されていないことになる。

 機能的な原因は、結局のところ意外な誘発物であったが、これは指導現場における一例である。
このようなアスリートのコンディショニングを担当する立場のコンディショナーであれば、この問題に対処して、最適な状態にアスリート(クライアント)を導いてやれるのが、おこがましい言い方ではあるが、「上級レベルのパーソナルトレーナーである」としているのである。

 国際レベルのアスリートを指導しているから「上級レベルである」といっているのではない。そのような不明確な基準であれば
● どれほど優れたコンディショナーであっても、国際レベルのアスリートなどを指導する機会に恵まれなければ、上級レベルとはいえない。
● オリンピックで活躍する選手を育てたから上級レベルである。
 といったものでは、
 実際の技量は推し量れない。

 私の経験上、次のことが言えると思う。
● 国際レベルで活躍できる資質を持ったアスリートは、どのような指導をやっても、それなりに頭角を現してくる能力がある。
● そのようなアスリートであれば、特に優れたコンディショナーがサポートしなくても、それなりの結果を示してくるように思われる。
● 逆に、高い能力があると思われるアスリートの多くが、指導者が課した過剰な運動刺激で回復能力を奪われてしまい、その才能を発揮することなく消え去っている。
● このように、才能を未然に摘み取られて消え去ったアスリートは、極めて多いと思われる(私自身、そのようなタイプのアスリートを数多く見てきた)。
● 才能はあっても、そのスポーツに適合していないが故に、その本来的な資質を伸ばしきれないで終っているアスリートもまた、極めて多いと思われる(このタイプのアスリートも多く見てきた)。
 つまり、
○ 指導していたアスリートが、好成績を示して注目された結果、そのアスリートを指導していたコーチやコンディショナー/トレーナーといった全ての方々が、他の指導者よりも抜きん出ている、という短絡的な見方はできない。
 と、思われるのである。

 一方で、
よくもまあ、このような(低い)タレントのアスリートばかりを抱えながら、これだけハイレベルなチームに育て上げたものだ、と感心させられる方にも、数多くお会いしてきた。
 そのような指導者に共通するのは、
● 指導テクニックが高い。
 という単純なレベルでは評価しきれない「何か」を持っている。
 それが、
● 多くの選手を惹き付けるカリスマ性
 であったり
● 選手からネガティブなエネルギーを取り除いて、ポジティブなエネルギーを植えつけてしまう目に見えない能力
 であったりする。
 このような能力は、評価する手段がない。ないが故に、結果でしか評価することができないのが実状であろう。

 また、
● 絶不調のアスリートを復活させたから、上級レベルである。
● チームの何人かが傷害(外傷・障害)を被っていたが、すべて適切に対処できたので、上級レベルのトレーナーである。
 というのも、ひとつの判断基準ともなり得るが、
○ アスリートを、不調に追い込んでしまった指導能力・管理能力はどうなのか?
○ 傷害を起こす状況に追い込んでしまう誘発要因は、どうなのか?
○ その障害は、未然に防げたのではないのか?
 といった問題まで踏み込んでみると、この問題の適切な評価もまた、絶対的な基準を定めることは困難である。


 このことを踏まえたうえで、一般人におけるパーソナルトレーナーとしての指導能力に置き換えてみると―――
● 多くのクライアントをみている。
 という評価でしか、一般的には判断基準がないかもしれない。
 つまり、
○ 毎月の売り上げ本数(指導報酬)によって、「売れている(優れた)パーソナルトレーナー」と「売れない(優れていない)パーソナルトレーナー」として評価してしまう。
 といった、傾向があるかもしれない。
 実際、私も
「月100万円を達成できるパーソナルトレーナーを目指そう」
 と、講習会などでは具体的な数字を掲げたこともある。

だが、
 「結果(売り上げ)だけの評価」と、クライアントの「満足度」「必要度」とは、必ずしも一致しないであろう(この点については、別途一例を示したい)。


 クライアントが「満足できるレベル」、あるいはクライアントにとって「そのパーソナルトレーナーが必要とされるレベル」のパーソナル指導を行えないのであれば、この業界で生き残っていくことは、実際に難しいかもしれない。

 世界全体の経済が悪化しており、米国基準であるグローバルな経済社会が崩壊に向かってひた走っている現在、フィットネス界・スポーツ界も、その余波で大きく揺らいでいくのは確かであろう。
 つまり、
● 一般的なパーソナルトレーナーとしてのレベルでは、経済悪化に伴って、徐々に売り上げが落ちて低迷する可能性が高い。
 と、思われる。
 それに
● 現在、毎年およそ1万人に達するほどの医療系の国家有資格者(鍼灸師や柔整師など)が排出されている。
● その9割以上は、独立開業を目指しても、できない状況にある。また、独立開業できても、3年未満でその多くが撤退してしまう。
● 彼らの多くが、就業口を求めて、フィットネス業界にも参入している。
● それに加えて、様々な団体の資格保有者が、フィットネス業界にも入ってくる。
 つまり、
○ 経済悪化で、フィットネス産業全体の低迷が、パーソナル指導全体の低迷にもつながっている。
○ 就業口を求めて、国家有資格者など多くの人材が、さらにフィトネス業界に参入してくる。
 このことは、多くの方が深刻に受け止めているものと、思われる。

 しかし、
● パーソナルトレーナーとしての潜在的なニーズは、さらに一段と高まる。
 と、私は思っている。
 いや、
● 運動指導におけるニーズが高まるのは、必然である。
 とさえ、思う。
● あまりにもこの分野(パーソナル指導)が、未開拓なだけである。
 と、考えている。
 なぜか?

 私の住む自由が丘の隣駅は、全車両がホームに止まりきれないほどの小さな駅である。その駅は、わずか200Mほどの商店街があるだけの住宅街に在る。この200Mほどの商店街には、実に7軒の治療院が存在する(最近、1軒は撤退した)。その商店街には、「薬局」「クスリ屋」が6軒も在る。それに伴って、病院やクリニックも点在している。
 このことは―――現在のクスリ漬け医療の実態を、如実に示している、と思われる。
 そして、まさしくこれこそが、上級レベルのパーソナルトレーナーが、未開拓な膨大なニーズのある一段階上のレベルに関わっていく問題である、と思われる。

平成21年9月中旬記 (つづく)